展覧会『エコロジー:循環をめぐるダイアローグ ダイアローグ2 つかの間の停泊者』を鑑賞しての備忘録
銀座メゾンエルメス フォーラムにて、2024年2月16日~5月31日。
ニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカの作品を展観。
保良雄は、《noise》において、薄く所々穴の開いた、稲藁で漉いた和紙による板を円状に接合し、緩やかに空間を仕切る。中には壁際にぐるりと電球が設置されていて、囲いの外に設置された太鼓に水滴が落下すると、その音に反応して光る。水滴が雨の象徴であり、太鼓が雷神のアトリビュートであるなら、光は稲妻であろう。水の循環により稲穂が実ること、すなわち人々が生かされることを示す。保良雄の《glacier》は掌の氷河のの氷が溶ける様を映し出した24枚の写真。会場の壁面に縦に並べられることで、氷が融け、流れ、蒸発し、再び凝結して降るという水の循環を連想させる。保良雄の《cosmos》はストームグラスを用いたオブジェだが、これも閉じた環境における水の循環を示す。
ケイト・ニュービー(Kate Newby)の《always, always, always》は会場の隅に陶板を敷き詰めて作った、磯のようなイメージのインスタレーション。隆起や穴、あるいは線の入ったゴツゴツした陶板は主に茶と藍で、ところどろこに緑の釉薬が潮溜まりのように溜まっている。ケイト・ニュービーの《Calls us, calls us.》は会場の柱に貼ったロープに吊したウィンド・チャイムで構成されるインスタレーション。ウィンドチャイムは棒きれのような長いものと、比較的短いものとがあり、白、黄、青、茶などに塗られている。会場には風が吹かないが、風の存在を呼び起こさせる。陶土の土、「磯」あるいは釉薬の水、ウィンド・チャイムの風(空気)、陶土を変化させる火により、土、水・風・火の四元素を表わしていると言える。
ニコラ・フロック(Nicolas Floc'h)は、海の中に広がる森のような海藻を捉えたモノクロームの写真「Intium Maris」シリーズ、カランク国立公園の海岸線に沿って水中30メートルの世界を映し出した「Invisible」シリーズ、海の色の違い――水深と微生物の数の差異――を65枚の写真で示す《La couleue de l'eau, Collones d'eau》において、海の環境を示す。
ラファエル・ザルカ(Raphaël Zarka)の提示するのは、スケートボードのために制作された木製の組み立て式彫刻「Paving Space Regular Score」シリーズ。スケートボードが接する瞬間とは、人間が世界と接することの微分的操作に擬えられる。ラファエル・ザルカのもう1つの作品は、美術史に現われる斜方立方八面体についての研究報告。斜方立方八面体はなぜ作家を魅了するのか。