可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『読まれなかった小説』

映画『読まれなかった小説』を鑑賞しての備忘録

2018年のトルコ・フランス・ドイツ・ブルガリアマケドニア・ボス2018年のトルコ・フランス・ドイツ・ブルガリアマケドニア・ボス
ニア・スウェーデンカタール合作映画。

監督は、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(Nuri Bilge Ceylan)。

脚本は、アキン・アクス(Akın Aksu)、エブル・ジェイラン(Ebru 
Ceylan)、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン(Nuri Bilge Ceylan)。

原題は、"Ahlat Ağacı"。英題は、"The Wild Pear Tree"。

 

初等教育を専攻したシナン・カラス(Aydın Doğu Demirkol)が大学を卒業して帰郷する。ダーダネルス海峡沿いのチャナッカレ県はトロイ遺跡やガリポリの戦いで知られるが、実家は内陸のチャンにある。途中、知り合いの商店主から父イドリス(Murat Cemcir)に貸した金貨を返してもらっていないと訴えられ、家まで手放す羽目になった競馬に父
が未だ依存していることを知る。家に着いたシナンは母アスマン(Bennu Yıldırımlar)に卒業を報告し、自分の部屋の本を久々に読み返すなどして過ごす。夜、教師をしている父が帰宅する。妹ヤセミン(Asena Keskinci)をからかうなどしながら食事をとっている。外出しようとしたシナンに、車を使うならガソリンとタイヤの空気を入れ、明日は井戸の掘削を手伝うように言いつける。イドリスは村人たちの無駄だとの意見に意に介さず、山間部にある祖父レジェップ(Tamer Levent)の牧羊地を緑化しようとしていた。様子を見に来たレジェップとともに3人で石を取り出す作業をしたが上手くいかず、イドリスと言い争いになったレジェップは帰ってしまう。シナンは母の実家に立ち寄り祖母ハイリエ(Özay Fecht)と祖父ラマザン(Ercüment Balakoğlu)に顔を見せる。シナンは祖母からイドリスに金を貸した男がやって来たという話を聞く。シナンは作家を夢見て、自叙伝を装った短編連作小説『Ahlat Ağacı(野生の梨の木)』を書き上げていた。出版費用の捻出のため、シナンは町長(Kadir Çermik)を訪れ、助成を嘆願するが、町長は歴史書や観光ガイドでないと公金を充てるのは困難だと断わり、読書家で通っている地元の砂利採取業社の社長を紹介する。社長のもとを訪れたが不在で、一人山道を歩いていたシナンは、水汲みをしている女性に呼び止められる。皆の憧れの的だった高校の同級生ハティジェ(Hazar Ergüçlü)だった。将来を尋ねられたシナンは教職試験に受かって教職に就くか兵役に就くか、いずれにせよこの町で腐りたくないと伝える。ハティジェは宝石商に嫁ぐことになっていたが、心は揺れていた。


文学青年シナンと、町長、社長(Kubilay Tunçer)、イマームのヴェイセル(Akın Aksu)らとの間で会話が繰り広げられる。とりわけ作家のスレイマン(Serkan Keskin)とのやり取りでは、スレイマンでなくとも辟易とさせられるような、シナンの自意識が野生の梨の実(Ahlat)のようにひねくれた形に表われている。

会話の途切れたときの、風景を静かに映し出すシーンが、会話と明瞭なコントラストをなして際立つ。とりわけ風の表現が清涼感をもたらす。

"Ahlat"は「梨の実」を指す言葉としてもはやあまり使われていない言葉で、それが「常識」から外れ、変化する現実から取り残されたシナンや父イドリスの姿を象徴する。

母アスマンがイドリス(癇に障る応答や笑い方もすごい!)への愛情を失わないことが、父子関係の扇子の要となっている。

時折挿入される夢を現実との継ぎ目なく表現している。

勝たないことと、負け犬。犬も重要な要素として繰り替えし表わされる。

「木馬」も要所で登場。井戸、地下室、木馬は全て穴のイメージ。

長尺の作品をまとめ上げたラストシーンも良い。

 

人魚(像)は何の象徴なのか。

トルコとドイツとの関連性。