映画『コリーニ事件』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のドイツ映画。123分。
監督は、マルコ・クロイツパイントナー(Marco Kreuzpaintner)。
原作は、フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)の小説『コリーニ事件(Der Fall Collini)』。
脚本は、クリスティアン・ツバート(Christian Zübert)、ロバート・ゴールド(Robert Gold)、イェンス=フレドリク・オットー(Jens-Frederik Otto)。
撮影は、ヤクブ・ベイナロビッチュ(Jakub Bejnarowicz)。
編集は、ヨハネス・フーブリヒ(Johannes Hubrich)。
原題は、"Der Fall Collini"。
2001年。ベルリンにある高級ホテルのスイート。大手メーカーの社長ハンス・マイヤー(Manfred Zapatka)は記者の訪問を受け、招き入れる。それから間もなくして、ロビーに男(Franco Nero)が姿を現す。ゆったりとした足取りだが、尋常ならざる雰囲気に、他の客が驚いている。ソファに腰を下ろした男に、ホテルの女性スタッフ(Sina Reiß)がすかさず近寄り、体調を尋ねる。男は、スイートに滞在しているハンス・メイヤーが死んだとだけ告げる。男の顔やシャツには返り血を浴びたような跡がある。彼女は受付へと踵を返す。
地方裁判所の法廷に弁護士のカスパー・ライネン(Elyas M’Barek)が飛び込んでくる。法服姿のカスパーに判事(Falk Rockstroh)と検事のライマース(Rainer Bock)が顔を見合わせ失笑する。被告人はファビリツィオ・コリーニ。訴因はジャン=バティスト・マイヤーの謀殺。面会を希望するカスパーに判事は許可を与える。カスパーは時間がかかる懸念を伝えるが、判事は構わないという。被告人席から階下へ通じる階段を降りると、ファビリツィオ・コリーニが立っていた。話しかけても彼は何も応えず、とりつく島もない。すぐに法廷に戻ったカスパーは判事に国選弁護人の選任申し立てをして即時に任命される。弁護士登録はいつかと尋ねられたカスパーが3ヶ月前と答えると、傍聴人のいない法廷では法服を着る必要がないと告げられる。
カスパーが弁護士仲間のアイケ(Hannes Wegener)らとカフェで落ち合うと、テラス席には彼らの刑法学の恩師リヒャルト・マッティンガー(Heiner Lauterbach)の姿が。マッティンガーはかつて58日間連続で証人である妻に対する質問を続け、遂にその偽証を暴いた「武勇伝」の持ち主であった。そして、話題は、カスパーがメディアを賑わせているハンス・マイヤー殺害事件へ。驚くカスパー。ジャン=バティスト・マイヤーとハンス・マイヤーが同一人物であることを知らなかったのだ。トルコ出身のカスパーは、幼い頃に父親(Peter Prager)が蒸発し、ハンス・メイヤーに引き取られて育てられ、今日の姿があった。
弁護人を辞退することを決意したカスパーは裁判所でマッティンガーに遭う。マッティンガーは辞任届がよく書けていると評価しながらも、いったん引き受けた職務を投げ出さないよう説得する。夜、事務所で一人資料を読み込んでいると、ハンスの跡継ぎとなった彼の孫娘ヨハンナ(Alexandra Maria Lara)が訪れる。カスパーはかつて彼女と恋愛関係にあった。カスパーがファビリツィオ・コリーニが国選弁護人に就任したことを告げると、ヨハンナは激怒して立ち去ってしまう。
カスパーは葬儀に参列するため、ハンス・マイヤーの屋敷へと車を走らせる。ヨハンナは当然不機嫌なままであったが、屋敷で過ごした日々がカスパーの脳裏に次々と蘇った。葬儀ではヨハンナの弔辞に胸を打たれ、ハンス・マイヤーの墓を前にカスパーの気持ちは揺れていた。
カスパーが接見に訪れても、ファビリツィオ・コリーニは何も語らなかった。弁護方針を立てようがないカスパーに、マッティンガーが自白させるよう求める。自白させた暁には、検察の主張する「低劣な動機」を撤回させ、謀殺よりも軽い故殺に訴因変更しようという提案だった。
ひたすら沈黙を続けるファビリツィオ・コリーニ。彼のハンス・マイヤー殺害の動機とは何か。そこには知られざる陰惨な歴史があった。なおかつその歴史を闇に葬る事態を招いたもう一つの歴史。この二つの歴史を明るみに出すことが狙いの作品で、それこそが魅力。ややご都合主義の展開もそれをもってチャラとなる。
裁判自体は意外な幕切れを迎えることになる。ある種の穿った見方を誘う終幕。
裁判長(Catrin Striebeck)がカスパーの手続きに従わない要求を受け入れる場面がいくつかあった。それはフィクションだからこそなのか、それともドイツの司法制度においては、裁判長の訴訟指揮権の範囲内として一般的なものなのか。
ニーナ(Pia Stutzenstein)の登場が出来すぎだが、ニーナに免じて赦す。