展覧会『木村華子展「SIGNS FOR [ ]」』を鑑賞しての備忘録
タグボートにて、2020年6月2日~18日。
木村華子の屋外広告塔を撮影した「SIGNS FOR [ ]」シリーズを紹介する写真展。
広告が掲出されず「空白」を表示する屋外広告塔の存在が気になった作者は、雲の無い青空を背景に屋外広告塔を撮影した。白い屋外広告塔を、宣伝・広告の役割を果たしていないとネガティヴにとらえるのではなく、特定の役割を果たさずとも存在して構わないというポジティヴなメッセージをそこに読み込んだのだという。
ネガティヴからポジティヴへの反転は、スマホを手に下を向いて歩く人々と、被写体を求めて上を向いて歩く作家との眼差しの違いが生みだしたものだろう。また、人口減少社会を直視せず、人口増大期の国際的なイヴェントをカンフル剤にしようと目論む刹那主義のエコノミック・アニマルと、生産性以外に価値尺度を求めようとする人間との価値観の差異の反映とも言える。「焼け野原」でも青空の美しさに眼を見張れる人であれ、と作者は呼びかけるようだ。
「SIGNS FOR [ ]」シリーズは、画像自体はデジタル加工は施されていないという。だが写真の屋外広告塔の上部に青いネオン管が取り付けられている。ネオン管は看板との結びつきが強い光である。広告を照らし出す灯りとして、あるいは [ ](=空白)を強調するため、白色系の光という選択もあり得たはずだ。だが、白色系にした場合、広告の照明としてのリアリティが全面に出て、青空という昼日中の状況で照明が点灯している印象を強めてしまい、 [ ](=空白)のモニュメントとしての性質が薄れてしまう。それに対し、白色系以外の光であれば、現実の照明から離れることを可能にし、 [ ](=空白)そのものが掲示物(=作品)であることが理解されやすいのだろう。そして、青色の光は、作品をよりシャープに見せている。
会場は白い壁面に囲まれた明るいスペースであった。暗い部屋で鑑賞した場合には、ルネ・マグリットの《光の帝国》のような印象を生み出すだろうか。