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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 平俊介個展『茫漠建設現場の夜』

展覧会『平俊介「茫漠建設現場の夜」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY MoMo Ryogokuにて、2024年2月24日~3月30日。

空想の建物を中心とした都市景観を描くアクリルガッシュのペインティング、空想建築の構想を表わした鉛筆によるドローイング、空想の建築模型で構成される、平俊介の個展。

本展のメインヴィジュアルに採用されている《中央共鳴堂》(970mm×1620mm)は、通りを挟んで向かい合う、建設中の2つの高層ビルを中心に描いた都市景観図。方形の平面プランの低層部はほとんど防音(養生)シートが外されるが未だ壁は作られていない。向かって右側の建物の照明は温白色、左側は昼光色で明るく浮かび上がる。防音(養生)シートに覆われた高層部は、身体をひねってポーズを取る人物のような複雑な外形をしている。左右で形が異なり、建築家は都市の入口を守護する仁王像をイメージしたようだ。建設中の2棟の向こうには、わずかに夕闇を残した空を背に高層ビル群が覗く。渋谷駅周辺の再開発で、谷底には高層ビル群が建設が林立する。可能な限りの最大容積の建築物は、資本主義的な欲望の具現化したリヴァイアサンである。人の力では対処できない怪物により東京は支配されている。そのような開発のための開発の象徴が、某国際的スポーツイヴェントであった。選手村には誰もいなくても灯りが煌々と輝き、式典や競技が観客なしで催された。《中央共鳴堂》は制御不能な開発により姿を現わしたリヴァイアサンとしての建築を描くのだ。資本主義の敵を排除するために睨みを利かせている。その結果生まれるのは、人のいない、空っぽの容器――共鳴堂――である。
《第二回転棟》(500mm×606mm)では、建設中の建物の防音(養生)シート越しに回転木馬のイメージが幻灯のように浮かび上がる。某国際的スポーツイヴェント――回転木馬が象徴する見世物――に高度成長期の再来――「第二」である――を託ける退廃的な発想が、開発のための開発の根底にあることが端的に示されている。

クロード・ニコラ・ルドゥー(Claude Nicolas Ledoux)を彷彿とさせる、空想の建築のドローイングは、人の身体を建築に取り込もうとする発想が見られる。とりわけ《大型シェルター立面図》(318mm×410mm)は、ルドゥーの幾何学的形態好みに似つかわしいが、原子力発電所などの冷却塔のような側面図と、富士山のような断面図とで構成され、核の傘に守られた日本を描き出す点で印象的である。

会場の近くでは、江戸東京博物館――利用者のことを全く考えていない建築家の独り善がりの建築で、バブル期の負の遺産――の大規模改修工事が行われており、夕闇に浮かび上がる巨大で醜悪な構造物は、「茫漠建設現場の夜」の作品群と恐ろしいまでに呼応する。