展覧会『渡辺豪個展「所在について」』を鑑賞しての備忘録
ANOMALYにて、2022年3月5日~4月2日。
写真作品「積み上げられた本」シリーズ5点と、映像作品3点で構成される、渡辺豪の個展。
写真作品「積み上げられた本」シリーズ(各1215mm×730mm)は、作家が所蔵する書籍を撮影し、その天(あるいは地)が縦に連なる形で2列に重ねられ、暗闇に浮かび上がるよう構成されたデジタルイメージのプリント。主に画面に現れる天(あるいは地)は紙自体の持つ白色系の色であるが、そこに当たる光によって様々な色を呈している。また、表紙・背紙、スピン、函はもとより、書籍の判型が異なるために影が出来たりバーコードなどが覗いたりすることでも変化が生まれている。《積み上げられた本(まぜこぜ)》は、一般的に本に対して持つイメージに近い白色系の天(ないし地)を中心とした組み合わせだが、《積み上げられた本(あちこち)》は、主に赤や黄などの暖色系の色で構成されている。照明の違いと、部屋に射し込む外光の変化によって、紙自体は変化しなくとも、様々な姿を現わす。書籍の天(あるいは地)を支持体に光を絵具のように定着させた絵画のような作品であり、戸外ではなく室内における光の効果を探究し、現代人にとって身近な光の豊かさを明るみに出している。また、辰野登恵子の絵画やドナルド・ジャッド(Donald Judd)の彫刻などに通じる、積層の持つ面白味もある。さらに、作家が所蔵する書籍であるという点で、それらは作家の興味・関心の物象化であり、一種の自画像とも言い得る。同じテーマを扱う映像作品《積み上げられた本》では、積み上げられた本(の天あるいは地)が暗闇の中で下へ向かいゆっくりと流れる情景が無音で映し出される。宇宙空間における物体の移動を想わせる映像は、映画『インターステラー(Interstellar)』の書棚を連想させる。個々の書籍があらゆる時代のあらゆる人々の世界を構成していることを想えば、それらを包含する高次の世界としての宇宙が表わされているとも言えるだろう。縦長の画面を本が滑っていく姿は、スマートフォンをスワイプする動作を想起させる。グーテンベルクの銀河系が掌中に収められた現代を象徴してもいるだろう。
《回転するアトリエ(ロフト)》は、様々な種類の段ボール箱をはじめ、収納用の箱、額装された作品(あるいは額のみ?)、CDなどを捉えた映像作品。梯子が立て掛けられた柵のあるロフトがモノクロームで映し出される場面から始まり、右方向へゆっくり回転していく。それに連れて、個々の物が浴びる光によって様々な色を呈するようになり、鮮やかな物の世界が無音の暗闇に浮かび上がる。物と物との間を埋め尽くす闇は宇宙空間のようで、物が公転運動を行なっているかのように見える。33分49秒という尺は、自宅とアトリエとの間の徒歩移動の時間に基づいている。生活と仕事との間の作家の往還は、作家を惑星に擬えた自転運動のメタファーともなっている。身体(ミクロコスモス)と宇宙(コスモス)との間に広がる、屋根裏部屋の宇宙だ。