映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のポーランド・イギリス・ウクライナ合作映画。118分。
監督は、アグニエシュカ・ホランド(Agnieszka Holland)。
脚本は、アンドレア・ハウパ(Andrea Chalupa)。
撮影は、トマシュ・ナウミュク(Tomasz Naumiuk)。
編集は、ミハウ・チャルネツキ(Michał Czarnecki)。
原題は、"Obywatel Jones"。英題は、"Mr. Jones"。ウクライナ語題は、"Ціна правди"。
畜舎の暗がりの中で鳴き声を上げる豚たち。
ジョージ・オーウェル(Joseph Mawle)が居室に籠もり、一人タイプライターに向かって創作している。
戦間期のイギリス。ナチスのポーランド侵攻は確実な情勢であり、ヨーロッパは既に戦時である。元首相で庶民院議員を務めるロイド・ジョージ(Kenneth Cranham)の若き外交顧問であるガレス・ジョーンズ(James Norton)が熱弁を奮う。ドイツ語やロシア語など複数の言語の堪能なガレスは、ヒトラーらナチス首脳らとともに飛行機に搭乗してインタヴューを敢行していた。だがロイド・ジョージを支えてきたベテランのブレーンたちは真剣に聞こうとせず、ロイド・ジョージも彼らに同調して笑い話にしてしまう。ロイド・ジョージの秘書スティーヴンソン(Fenella Woolgar)がモスクワからの電話だとガレスに告げに来る。だが、ガレスが受話器を耳にしても雑音しか聞こない。その晩、ガレスは執務室でソ連のプロパガンダを聞いていた。遅ればせながら自動車産業を起ち上げ、戦車など兵器の開発も可能になったと放送は訴えていた。世界恐慌の最中、ソ連だけが繁栄を享受している。だが、産業を興す資金はどこから得ているのか。それがガレスの疑問であった。そこへスティーヴンソンが珍しく紅茶を持ってやって来る。目的はガレスに対する肩叩きであった。世界恐慌によって英国経済は危機に瀕しており、ロイド・ジョージの懐も例外ではなかったのである。ガレスがロイド・ジョージのもとを訪れると、餞別代わりの推薦状を手渡される。スターリンに話を聞けば疑問が氷解するはずだとガレスは早速行動を開始する。ソ連大使館に向かうと、係官(Michalina Olszanska)に対しジャーナリストとして1週間の滞在ビザを申請する。ドイツで知り合ったモスクワ在住のジャーナリスト、パウル・クレブ(Marcin Czarnik)に電話するが、彼は立場が悪化しているので協力できない、ニューヨークタイムズのモスクワ支局長ウォルター・デュランティ(Peter Sarsgaard)を頼るようにと告げている最中に電話は途切れてしまう。モスクワに到着したガレスは早速ウォルターのもとを訪れる。スターリンに会いたいという腹案を告げると、ロイド・ジョージの近くにいたせいでどんな首脳にも会える気になっていないかと諭される。パウルがホテル・メトロポールから出たところを強盗に襲われて亡くなったことも知らされる。エイダ・ブルックス(Vanessa Kirby)がウォルターに原稿を持ち込み、モスクワ支局の有望株だと紹介される。ガレスが宿として指定されていたホテル・メトロポールへ向かうと、受付の女性(Olena Leonenko)から2日の滞在しかできないと告げられる。渋々了承したガレスは、ホテルで出遭った記者たちにウォルター邸のパーティーに誘われる。会場は酒色に溺れる者たちで溢れていた。
スターリンが惹き起した人工飢饉「ホロドモール(Голодомо́р)」を告発したガレス・ジョーンズを描く。
本編に入る前に、ジョージ・オーウェルの『動物農場』を連想させるシーンが置かれる。
冒頭のガレス・ジョーンズ(James Norton)の演説とそれに対する周囲(政治家のブレーンたち及び政治家)の反応は、宥和政策のイギリスをよく表している。
ニューヨークタイムズのモスクワ支局長ウォルター・デュランティ(Peter Sarsgaard)の邸宅で開かれる饗宴、そしてウォルター・デュランティその人は、ジャーナリストであるガレス・ジョーンズとの対比によって、マスメディアの頽廃を強く訴える(マスメディアが権力の広報として仕える姿自体には何の驚きもないが)。
ガレス・ジョーンズが潜入先で目にする惨状、トラウマティックな体験を描く。映像を上回る印象を残すのが、現地で歌われる歌だ。