映画『ドラキュラ デメテル号最期の航海』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のアメリカ映画。
119分。
監督は、アンドレ・ウーブレダル(André Øvredal)。
原作は、ブラム・ストーカー(Bram Stoker)の小説『吸血鬼ドラキュラ(Dracula)』第7章「デメテル号船長の航海日誌(The Captain's Log)」。
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原案は、ブラギ・シャット・Jr.(Bragi Schut Jr.)。
脚本は、ブラギ・シャット・Jr.(Bragi Schut Jr.)とザック・オルケウィッツ(Zak Olkewicz)。
撮影は、トム・スターン(Tom Stern)。
美術は、エドワード・トーマス(Edward Thomas)。
衣装は、カルロ・ポッジョーリ(Carlo Poggioli)。
編集は、パトリック・ラースガード(Patrick Larsgaard)。
音楽は、ベアー・マクレアリー(Bear McCreary)。
原題は、"The Last Voyage of the Demeter"。
1897年、ルーマニアからイギリスまで木箱50個運搬にロシアの帆船が貸し切らた。船は廃墟と化してイギリスに漂着した。船名はデメーテル号。これは同船の乗組員による物語である。
ブラム・ストーカー(Bram Stoker)の小説『吸血鬼ドラキュラ(Dracula)』第7章「デメテル号船長の航海日誌(The Captain's Log)」に基づく。
1897年8月6日。イングランド、ホイットビー。夜、雷雨の中、警察署に難破船の漂着が報告される。署長(Graham Turner)が通報者とともに現場に向かうと、一足早く駆け付けたフレッチャー(Christopher York)が呆然と座り込んでいた。生存者の確認のため乗船しました。それで? フレッチャーは首を横に振る。署長はフレッチャーの抱えるものに気付く。何だ? 航海日誌です。
この日誌は記録とともに警告である。発見者に神のご加護を。神はデメテル号を見放されたのだが。我々は止めようとした。我々が成功しないとしてもあなた方に神のご慈悲がある。
もう後戻りは出来ません。フレッチャーは怯える。署長らは難破船へと向かった。
4週間前。トランシルバニアの山道を荷馬車の列が下る。積荷の中にドラゴンのマークのある木箱がある。やがて行く手に黒海と大きな港街とが見えて来る。
7月6日。ブルガリア、ヴァルナ。エリオット船長(Liam Cunningham)のデメテル号が入港すると、船長の孫トビー(Woody Norman)は大勢の人々が行き交う街に興奮して船を飛び出す。エリオットは貨物の積み込み前に不足する船員を募集するようヴォイチェク(David Dastmalchian)に命じる。酒場で賭けに興じて船を待っていたクレメンス(Corey Hawkins)は、イギリスへ向かう船が水夫を募集していると聞きつける。
ヴォイチェクは屈強な3人の船員が必要だ、ロンドン行きで支払いは金貨だと集まった男たちに告げる。俺は牛なみだぜと1人の男(Noureddine Farihi)が売り込み、居合わせた連中がどっと笑う。ヴォイチェクは階段に並ぶ男たちを品定めしていて、クレメンスに目を留める。エリオットが尋ねる。学のありそうな身形だな。どこを出たんだ? ケンブリッジ大学です。船医が必要ならお役に立てます。久しぶりですが乗組員に必要な知識はあります。船を学ぶの船を浮かべるのとじゃ話が違う。海で遭難したときに役立つ本からの知識なんて何がある? ヴォイチェクはクレメンスを頭でっかちの役立たずと判断する。天文学が、一例でしょう。海図や、方位磁針を失う可能性はあります。しかし、星を失う可能性はありますかね? これほど急いでイギリスに帰ろうというイギリス人に会ったことがない。船が到着したらすぐ出てってくれ。求めてるのは乗客じゃなくて屈強な乗組員なんだ。ヴォイチェクは牛なみだと言った男ら3人を選び出す。
オルガレン(Stefan Kapicic)が荷馬車の親方(Rudolf Danielewicz)の申し出をヴォイチェクに報告する。留まることはできないと言ってます。絶対にあり得ない。彼らの手を借りなければ潮に乗れない。日没前に出発しなければならないと言ってます。訳が分からん。親方は馬方たちに何か声を荒げると、ヴォイチェクたちに近付き金貨を手渡す。乗組たちにやってくれ。親方は馬方たちに声をかけて帰路に着く。ヴォイチェクは渡された金貨が運送料として支払った額より多いことに気付く。あいつは最後に何と? 幸運を。
デメテル号の出港準備が進む。岸の木箱が次々と吊り上げられては船倉に降ろされていく。牛なみを誇った男が木箱のドラゴンのマークを目にしてロープを手放してしまう。岸にいたトビーの上に木箱が落ちるとき、近くにいたクレメンスが咄嗟にトビーを救い出す。大丈夫か? ヴォイチェク、あの男を捕まえろ! 船から慌てて降りる牛なみの男。ドラゴンなんて聞いてねえ。この印が何だか知ってるぜ。悪い前兆だ。お前は少年を殺してたかもしれないんだぞ。せいぜい金貨を溜め込むんだな。神のご加護を。神よ船を救い給え。神よ乗組を救い給え。祈りの言葉を吐いた牛なみの男は慌てて逃げ去る。船長はトビーの無事を確認するとクレメンスに感謝する。ヴォイチェクがクレメンスに1時間で出港だと伝える。もし素人だと分かったら海に突き落とすぞ、天文学者さんよ。恩に着ます。ヴォイチェクはラーセン(Martin Furulund)にさっさと木箱を片付けろと指示を出し、積み込み作業が再開する。クレメンスが荷物を持ってデメテル号に乗り込む。
1897年8月6日。イングランドのホイットビーに難破船が漂着する。署長(Graham Turner)が通報者とともに現場に到着すると、船内を捜索したフレッチャー(Christopher York)から生存者なしと報告を受ける。青ざめた彼が手にしていたのは航海日誌だった。
1897年7月6日。ブルガリアの港湾都市ヴァルナ。ケンブリッジ大学出身でありながらアフリカ系のために勤め口が無く放浪の身の医師クレメンス(Corey Hawkins)は、ロンドン行きの商船デメテル号の水夫募集に応じる。一等航海士ヴォイチェク(David Dastmalchian)は船員ではなく船客だろうとクレメンスをはじき、牛なみだと豪語する男(Noureddine Farihi)ら3人を雇い入れる。
デメテル号が輸送する木箱をルーマニアから運んできた荷馬車の親方(Rudolf Danielewicz)は日没前に出立すると言い張り、荷役を手伝わず運賃以上の金貨を置いて立ち去った。
船倉への積み込み作業中、木箱にドラゴンの印を見た牛なみの男は恐怖でロープを放してしまう。木箱の下敷きになりかけた少年トビー(Woody Norman)をクレメンスが咄嗟に救い出す。恐慌をきたした男は祈りの言葉を呟いて逃げ去る。孫の命を救われたエリオット船長(Liam Cunningham)はクレメンスを乗組員に採用する。
出帆したデメテル号は軽快に海を進む。エリオットは今回の航海を最後に陸に上がり、トビーを伴ってアイルランドに落ち着くつもりだとヴォイチェクに告げ、デメテル号の後事を託す。ロンドン到着が早まり、荷主の約束した賞与は確実だと船員たちは盛り上がる。船倉の家畜が突然激しく騒ぎ立てた。家畜の世話係のトビーが心配するのを嵐の到来を予期したんだろうとクレメンスが慰める。船倉で荷崩れする音がしたためにクレメンスが確認すると、床に落ちた木箱の中に瀕死の女(Aisling Franciosi)が横たわっていた。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
最初に漂着したデメテル号に生存者が無いことが示される。そして、船から誰もいなくなるまでの経緯を順に確認していくことになる。
ヴァルナ港でデメテル号が運搬する木箱を運び込んだ荷馬車の親方は日没の前に出立すると言って、運賃以上の金貨を置いて立ち去る。新たに雇い入れた屈強な水夫が木箱のドラゴンの印を見て恐慌状態となり逃げ出す。
デメテル号は順風満帆で、船員たちは早期到着の賞与に色めき立つ。しかし、家畜が一斉に騒ぎ出す辺りから雲行きが怪しくなる。積荷の中に瀕死の女がいたのを発見したクレメンスが輸血治療に当たる。船長が最後の航海を汚したくないと密航者を受け入れたため、縁起が悪いと嫌がる船員たちは渋々女を受け入れる。その後、全ての家畜が噛まれて殺され、乗組員のペトロフスキー(Nikolai Nikolaeff)が行方不明になり、と不穏な事態は続く。治療によって恢復した女は、地元の城に棲む、罪の無い人の血を吸う悪魔「ドラキュラ」について語り、自分はドラキュラの生贄として連れて来られたのだと言う。
夜に何かがいる気配がある。昼間に捜索しても船内に怪しい影は無い。そして再び夜になり、夜が明けると惨事の痕跡が見つかる。海上の閉鎖空間で1人ずつ血祭りに上げられ、なす術がない船員たちは恐慌状態に陥っていく。ドラキュラに噛まれた者は、仮に一命を取り留めたとしても、吸血鬼同様、日の光に焼かれてしまう運命を逃れることはできない。
ブラム・ストーカーの原作小説に比べ、はっきりとドラキュラを描き出し、なおかつ人間よりもコウモリ的な怪物として表現している。それでも原作小説の見えない敵に対する恐怖を描こうと努めている。この見えない敵に対する恐怖こそ、今、第7章「デメテル号船長の航海日誌」だけを取り上げて映像化した理由であろう。見えない敵はドラキュラであり、ドラキュラに噛まれることによって感染するウィルスである。ドラキュラに翻弄されるデメテル号は、パンデミックに襲われた都市のメタファーなのだ。