映画『ゴッズ・クリーチャー』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のイギリス・アイルランド合作映画。
100分。
監督は、サエラ・デイビス(Saela Davis)とアナ・ローズ・ホーマー(Anna Rose Holmer)。
原案は、フォーラ・クローニン・オライリー(Fodhla Cronin O'Reilly)とシェーン・クローリー(Shane Crowley)。
脚本は、シェーン・クローリー(Shane Crowley)。
撮影は、チェイス・アービン(Chayse Irvin)。
美術は、インバル・ワインバーグ(Inbal Weinberg)。
衣装は、ジョーン・バーギン(Joan Bergin)とララ・キャンベル(Lara Campbell)。
編集は、ジーン・アップルゲイト(Jeanne Applegate)とジュリア・ブロッシュ(Julia Bloch)。
音楽は、ダニー・ベンジー(Danny Bensi)とソーンダー・ジュリアーンズ(Saunder Jurriaans)。
原題は、"God's Creatures"。
アイルランドの漁村。未明にボートが港を出る。
グイニー大西洋水産加工場。大勢の女性たちが魚介類の加工を黙々と行っている。アイリーン・オハラ(Emily Watson)が作業台の魚介の量を確認して補充したり、箱に入れられた加工された魚介を回収したりして廻っている。
アイリーンは工場の外に出て、同僚のサラ(Aisling Franciosi)、メアリー・フィッツ(Marion O'Dwyer)、シーラ・ブリーン(Leah Minto)と一服している。調教されたロバの方がマシ。何だって成れたのに。教師、看護師、美容師でも。サラが愚痴る。美容師なんて随分高望みだねと、メアリー。ロバって間抜けってことでしょ。そのとき救急車のサイレンが聞こえてくる。
私の息子が! メアリーが悲痛な声を挙げている。救急隊員がストレッチャーで運ぶマークの遺体にメアリーが縋り付く。
メアリーの家。テーブルに坐りすすり泣くメアリー。アイリーン、サラ、シーラは声をかけることもできない。
港を見下ろす高台にある墓地。サラが独唱するのを葬儀に参列した村人たちが黙って聞いている。
喪服の人々がパブに集まる。アイリーンの坐るテーブルには年老いて自分では何もできなくなってしまった義父パディ(Declan Conlon)がいる。向かいに坐る娘のエリン(Toni O'Rourke)が溢す。男たちに泳ぎを教えるんだけどな。何言ってるの。サラが窘める。文字通り水の上で生活してるのに誰も泳ぎ方を学ばないじゃない。伝統だって分かってるでしょ。何でよ、泳ぎ方を知ったら禍を招くとでも言うの? 泳げなきゃ飛び込んで助けることもできないでしょ。自分のことしか考えないろくでなしばっかり。エリンの赤子が泣き出すのでアイリーンが抱き上げてあやす。一晩に何回も泣いて起きるのよ。あなただってそうだった。眠れなかったものよ。父さんは泣かせて置けっていうけど。声が聞こえてるのにとても無理。まあ、あなたの方が手がかからなかったわね。エリンとサラが出て行く。アイリーンが子守唄を歌いながら赤子をあやす。そのとき立って雑談していた男たちが楽しそうなやり取りを始めるのが聞こえてきた。長らく家を空けていた息子のブライアン(Paul Mescal)だった。驚くアイリーン。ブライアンも気付き、アイリーンのもとにやって来て抱擁を交わす。母さん、変わらないね。俺の弟? ブライアンが赤ん坊を見る。違うわよ。アイリーンが息子との再会を喜んでいると、エリンとサラが戻って来る。驚いた、ここで何を? そろそろ戻ろうかって。あなたが戻った代わりにマークが亡くなったわ。今日の葬儀ってそうだったのか。ブライアンは項垂れてメアリーのもとに挨拶に行く。
アイリーンの家。ブライアンが食卓で煙草を吸う。パディはいつからこうなの? この状態でもう数年経つわ。あんたに驚いてるわ。エリンが答える。母さんも座れば? ブライアンが台所に立つアイリーンに言う。あんたがいなくなって母さんはずっと働きっぱなし。エリンが泣き出した赤ん坊を見に行く。車の音がして父のコン(Declan Conlon)が帰って来る。挨拶してきなさいよ、喜ぶわ。ブライアンが出て行き父と握手を交わす。2人が握手するとはね、とエリン。変わったと思わない? そう思う? 母親には分かるのよ。ブライアンがコンとともに食卓に来る。何て顔だよ。そんなに衝撃? 何だと。夕食は? これから。家にいるなんて信じられない。家に帰って良かった。オーストラリアでしょ。連絡取れなくなって何年? 突然家に帰ろうって閃いたわけね。酷い天気に下らない仕事、で連絡無しってこと? そんなとこだね。誤魔化さないでどうして戻ったの? 祖父さんの牡蠣だよ。なんてこった。振り出しに戻るか。金はあるんだろうな? 牡蠣は手間がかかるぞ。金もかかる。父親がブライアンを諭す。でも漁業権は残ってるわ。コンが止めた後からずっと支払っておいたから。念のためにね。
アイルランドの漁村。アイリーン・オハラ(Emily Watson)は、グイニー(Steve Gunn)の水産加工場で働くことで、夫のコン(Declan Conlon)、赤子を抱える娘のエリン(Toni O'Rourke)、耄碌して何もできなくなった義父パディ(Declan Conlon)との倹しい生活を支えている。メアリー・フィッツ(Marion O'Dwyer)の息子マークが水難事故で亡くなった葬儀の日、オーストラリアに出ていったまま長らく音信不通だった息子ブライアン(Paul Mescal)が突然姿を現わす。アイリーンは息子の帰還に歓喜する。ブライアンはパディがかつて行っていた牡蠣養殖を復活させるという。アイリーンはブライアンのため水産加工場からフランシー(Brendan McCormack)の牡蠣養殖の網籠を盗み出すが、たまたま現場を通りかかったサラ(Aisling Franciosi)にその現場を目撃される。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する)。
愛する息子ブライアンのために道を外れた行動をとってしまう母親アイリーンの姿を描く。
冒頭、暗い海面が映し出される。何もかもを受け容れる海は母親の象徴である。
海で働く漁師と、彼らが獲ってきた魚を処理する水産加工場の労働者。夫・父・息子と、妻・母・娘と。両者の間には主従関係がある。暴力によって、男たちが女たちを暴力で支配し、女たちは男たちの後始末をする。女たちは飼い慣らされた間抜けな存在だと自認しながらも、体制に順応するか漁村を出て行くほかに選択肢はない。