可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 武藤彩加個展『交信するかたち』

展覧会『武藤彩加展「交信するかたち」』を鑑賞しての備忘録
OギャラリーUP・Sにて、2024年4月22日~28日。

都会の何気ない風景を幾何学図形や記号で表わした銅版画21点で構成される、武藤彩加の個展。エッチングとアクアチント、さらにはコラグラフあるいは凸版刷りを組み合わせた混合技法で、モノクロームの作品と、黄や藍、あるいは緑を差した作品とがある。

夜明け前を描いた《before dawn》の縦長の画面の上部には鋸屋根の工場の上を青い雲が棚引く。工場の右側に見える半円は明け方に沈む満月であろう。工場のシルエットの裾を通って右下に急カーブを描く帯に導かれ視線を移すと、組み合わされた円、伸ばしたマフラー、斜めの円柱、U字のパイプ、掌のような形などが並ぶ。それらの左側には鍵穴状に明るい部分があり、三角形、滴、丸、板付蒲鉾、L字などの形が並ぶ。画面の左端には縦に2つ半円のシルエットが並ぶ。並ぶ半円のシルエットは閉じられようとしている夜の帷だ。画面左下を中心に画面中央を通って画面右下へ延びる90度の円弧の帯は真夜中に南中した満月が地平線の下へと沈む軌跡であった。鍵穴状の明るい部分は、朝の扉が開くことの象徴であり、その中に表わされた青い円は日の出の予兆である。幾何学図形や記号のモティーフが恰も互いに交信するように連なって運き出す。まさに「交信するかたち」である。
メインヴィジュアルの《day to day》では、縦長の画面の上部は4×3の桝目に仕切られている。12ヵ月を表わすカレンダーだろう。桝目の中にさらに桝目が描き入れられて日にちを表わすものもある。桝目の中に散らばる形は星、太陽、月のような天体、雨や雪の気象、山や海などの自然の象徴である。田畑らしき表現も見出せるようだ。桝目を跨ぎ越えていく線が、時間の流れを表わす。画面下部にはU字と2つの三角波を組み合わせたような形が大きく配されるが、U字の内側の丸とV字が片目を瞑るように見えるため、全体として顔のように見える。時の流れに向き合う人物を組み合わせたようだ。
《雪の日》の十字は雪の表現かと形の指し示す内容を考えて見る楽しみがある。《背の高いかたち》の高層ビルの表現は《都会のいきもの》にも見出せる。作品を眺めていくうち、記号や形が解読されていく。かたちを介して鑑賞者は作品(作家)と交信できるようになるだろう。