可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン写真展 Master of Elegant Simplicity』

展覧会『ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン写真展 Master of Elegant Simplicity』を鑑賞しての備忘録
シャネル・ネクサス・ホールにて、2024年2月7日~3月31日。

ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(1900-1968)の写真展。代表的なファッション写真を中心に、同時期に活躍したシャネルらとの交流を示す写真、著名人の肖像、旅先でのスナップなどが併せて紹介される。

本展のメインヴィジュアルに採用されている《DIVERS, SWIMWEAR BY IZOD, 1930》は正面奥に伸びる板に坐る男女が遠くを眺める姿を捉えた作品。女性は両太腿と身体の左側をカメラに向け顔は正面奥へと曲げる。そのすぐ奥にタンクトップの男性が女性と同じ方向を見据えている。海辺に見えるがシャンゼリゼ通りのヴォーグスタジオの屋上で撮影されたという。因みにモデルを務めるのはリー・ミラー(Lee Miller)とホルスト・P・ホルスト(Horst P. Horst)で、ともに写真家。リー・ミラーは《LEE MILLER, SAILCLOTH OVERALLS BY YRANDE, 1930》にも登場。ホルストは《HORST TORSO, PARIS, 1931》や《HORST TORSO WITH BEACHWEAR, 1930》などでギリシャ彫刻のような肉体を示している。

TOTO KOOPMAN, EVENING DRESS BY AUGUSTABERNARD, 1934》はドレスの裾を引き摺りながら階段を下るトト・クープマン(Toto Koopman)を捉えた作品。背後にギリシャ様式の彫像が設えられていて、ヌードから着衣、直立から歩行という変化を表わす。のみならず、台座と袖とが接続し、古典様式の流れを汲んでいることを暗示する。

《SYDANESE NUDE, 1937》はアフリカ男性のヌード。艶やかな漆黒の肌の隆々とした肉体を切り取った。トルソとしての《HORST TORSO WITH BEACHWEAR, 1930》、女性が飛び立つ姿勢をとる《BLACK & WHITE SWIMSUIT BY PATOU, 1929》、フラフープとともにポーズをとる《ERENA CARISE, 1930》とともに彫刻的なイメージの作品。

《MARLENE DIETRICH, 1936》はマレーネ・ディートリヒ(Marlene Dietrich)の肖像。画面左半分に彼女の顔を、画面右側には彼女の手にするシガレットから立ち上る煙が配される。やや眠たげな女優の目と相俟って、煙は現実世界から映画など別世界へ誘う。

《BRONZE SCULPTURE BY SIEGEL, 1928》は、パリの多くの衣料品店にマネキンや金属製アクセサリーハンガーを卸していたシーゲル社製のブランクーシ風ブロンズ像。
シーゲル社のブロンズ像。

《SALVADOR DALÍ, 1940s》は、虚飾を殺いだような表情のサルヴァドール・ダリ(Salvador Dalí)の肖像。大谷亮平と言われても気付かない。ダリはシャネルの別荘「ラパウザ」に滞在中《L'Instant Sublime》を描いたそうで、ダリと妻のガラを同作品の中に入れ込んだ《PORTRAIT OF THE DALÍ'S L'INSNTANT SUBLIME, 1939》が撮影されている。

《JOSEPHINE BAKER, C1929》は、裸身にショールと真珠のネックレスだけを身に付けたジョセフィン・ベイカー(Josephine Baker)を捉える。「黒いヴィーナス」の異名を持つこともあり、本作はヴィーナスの誕生の絵画を下敷きにしていると解される。

《CHARLIE CHAPLIN, 1932》はチャールズ・チャップリン(Charles Chaplin)の肖像。山高帽にちょび髭のイメージが強いので扮装をしていないと誰だか分からない。