展覧会『KYOBASHI ART WALL―ここから未来をはじめよう 第4回優秀作家展覧会 ネルソン・ホー「赤い空に飛んでいた赤い鳥」』を鑑賞しての備忘録
KYOBASHI ART ROOMにて、2024年2月28日~3月10日。
赤い岩絵具による描線が印象的な絵画と、砂漠と化した部屋をテーマとしたインスタレーション《僕の童心や純真を奪った烏》とで構成される、ネルソン・ホーの個展。
《頭上の暗雲》(800mm×800mm)は、3人の人物が寄り添い涙を流す姿を、胸から上の位置で切り取った作品。右に顔を向けた人物の目から流れた涙は、魂のような流体となって、徐々に上空に昇っていく。同様に、左側を向く人物から零れた涙も、空に上がっていく。涙は頭上で雲と成って広がり、3人を覆い始める。心理的な問題が状況を左右する。ミクロコスモスとマクロコスモスとの照応と言っても過言ではあるまい。
《迂回に迷い込む》(1300mm×1300mm)は、10脚の椅子に囲まれて佇む裸の人物の後ろ姿を描く。椅子に坐る気が起きないのか、坐る椅子が10脚もあって選べないのか。いずれにせよ眼鏡を掛けた人物は途方にくれているようだ。周囲には烏が群がり、早く坐るよう急き立てているようにも見える。
《我が愛のパ・ド・トロワ》(2234mm×1167mm)は、3人の人物が大きく腕を振って踊る姿を表わした作品。横へ上へと伸ばされた腕は実際の腕の長さに比して長い。その長さが、まさにダンスの伸びやかさを伝える。敢て上半身だけにクローズアップして、下半身の表現をカットしたことも浮遊感を生むのに効果的である。
ところで、下村観山の《弱法師》では、遙拝する俊徳丸の地を描く右隻から日輪の浮かぶ左隻への展開において梅が枝の部分だけにトリミングされ、拡がり・浮遊感が生まれた。それと同じことが、ほぼ向かい合わせに並ぶ、地面に足の裏をぺったり付け、椅子の脚も全て地に着いている《迂回に迷い込む》と、下半身の表現をカットした《我が愛のパ・ド・トロワ》との両者の関係に見出しうる。
インスタレーション《僕の童心や純真を奪った烏》では、砂に覆われた部屋に、カウチ、テレビ(室内で刺繍する人物の姿を捉える映像作品「さびしがりやのわたし」が流れる)などが置かれ、壁面は赤い烏の絵「Murder」シリーズが覆う。《迂回に迷い込む》で烏に苛まれる人物の感覚を鑑賞者は味わうことになる。烏たちは果たして外から飛来するものなのか。自らの心打ちに巣くっているものではないか。英文の詞書の付いたグラフィックノベル的な6コマの《鳥と蜂》がメッセージを投げ掛けている。