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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『Idemitsu Art Award展 2023』

展覧会『Idemitsu Art Award展 2023』を鑑賞しての備忘録
国立新美術館〔1階展示室1B〕にて、2023年12月13日~25日。

次代を担う若手作家を支援する「シェル美術賞」(1956-1981, 1996-2001, 2003-2021)を引き継ぐ公募企画「Idemitsu Art Award」(2022-)。通算52回目の入選作品を展観。

小澤幸歩《Painted Sunshine》(1120mm×1450mm)は、白い部屋のベッドに横たわる白のビキニを身に付けた浅黒い肌の女性を描く。ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(Tiziano Vecellio)の《ウルビーノのヴィーナス(Venere di Urbino)》に基づくエドゥアール・マネ(Édouard Manet)の《オランピア(Olympia)》を独自に解釈したものと考えられる。《オランピア》でベッドに横たわる白い肌を顕わにした女性と花籠を持つ着衣の黒い肌の女性とを一体化したのが《Painted Sunshine》の水着の女性であろう。壁に掛かる鏡には女性の背後からの姿と、窓外の夜空(?)が映り込む。映り込み≒反転は、女性の肌に改めて注目させる。焼けた肌は陽光によるものであり、肌を射す光は、鑑賞者――とりわけ男性――の視線のメタファーである。描かれた視線。反転して、視線は鑑賞者に向かって投げ返された。《オランピア》の支配・被支配(帝国・植民地、男性・女性)の関係を160年後に再解釈してみせた。
大矢一穂《神のみぞ知る》(1620mm×1120mm)には、裸体の女性が絵を描く姿が描かれている。女性はイーゼルに立て掛けた画布に向かいながら、鑑賞者の側を見詰めている。裸体の女性は、見られる側から見る側へ、描かれる側から描かれる側への反転を示す。思えば、《オランピア》でモデルを務めたヴィクトリーヌ・ムーラン(Victorine Meurent)は自身画家であった。本作もまた160年後の《オランピア》と言えまいか。見よ、画中画の左上に大きく描かれた大きな太陽を。それは目として表わされている。"Painted Sunshine"である。

梅原義幸《持って戻る》(1620mm×1620mm)は、乗用車の車内から見る山の風景を描いた作品。中央に大きく手鏡を描き、そこに大きく顔が映り込む。視線を送る対象には眼差しの主体が映り込む。絵画とはすべからく自画像である。

奥木電助《Dance^3》(1303mm×1620mm)には山を望む開けた場所において、ダンスを踊る3人の年老いた男たちと、近くに坐る女性とが描かれる。麦わら帽、黒い上着、白いパンツという揃いの衣装の老人たちは、緩慢な動きで気分良く踊る。恰も死んでいるかのような土気色をした女性の静止が、相対的に老人のダンスに華やかさを生む。フェルディナント・ホドラー(Ferdinand Hodler)の世界に通じる粘着質な魅力がある。

櫻井あや乃《ながい休憩》(1620mm×1303mm)には首の無い人物が佇む夕闇の世界が描かれる。首のない人は右端に立ち、その真上には中空の壺のようなものが傾き、流れ出した液体か何かが画面左下にある切断された頭に向かって流れ込む。人は頭を切断し、電波――による情報――を受け取るためのデヴァイスへと変えてしまった。作者独自の進化論である。