展覧会『平松麻「脈脈」』を鑑賞しての備忘録
LOKO GALLERYにて、2023年11月22日~12月23日。
《道順》(1620mm×1303mm)の画面には、茫漠とした黄土色が拡がる。下が荒々しい筆致で色が濃く、上側に向かって色が明るく(白っぽく〕なり、かつ滑らかな表面となることで、遠近感が生まれ、例えば一面の麦畑や黄土高原の天地にも見える。画面下部では黄土部分を切り分けた褐色部分があり、とりわけ黄土色の中に切り込んでいく直線は、コンバインハーベスターが麦畑を進んだ跡のような通路を形成する。幼い子供が床に寝転がり、毛足の長い絨毯の端を見たとき、絨毯にその指を走らせたときに麦畑を走り抜ける様を思い浮かべる、その空想する眼差しを画面に落とし込んだかのようである。この点、《種まきの地図》(930mm×747mm)には、パレットと置かれた床、画布を立て掛けた壁がそのまま黄土の大地の窪地(畑地)へ、さらにはその向こうに広がる曠野と幽かに見える湖(ないし海)、空へ連なっている様が描かれるが、パレットや画布のある室内と大地とが連続することで、絵画が空想へと誘う装置であることを絵解きしていると言えよう。淡くくすんだ青い画面いっぱいに積雲を表わした《雲》(1620mm×1303mm)も、雲を描くことで、雲の形に何かを見る、その作用を絵画化したものではなかろうか。本展のメインヴィジュアルに採用されている《原石Ⅱ》(747mm×930mm)は、茶の画面に浮かぶ岩から湧き出る水が、その下に浮かぶ岩に垂れ、岩を穿ちつつ流れた水が地面に滴り落ちる様が描かれる。地面には白い十字架のようなものが傾いて立ち、濃い影を落としている。浮かぶ岩に、ルネ・マグリット(René Magritte)の《ピレネーの城(The Castle of the Pyrenees)》を想起せざるを得ない。水の流れは時間であり、生命の象徴であろう。複数の岩は複数の世界であり、落水は転生である。小さいながら白く輝く十字架は、墓標であるとともに再生を示すものではなかろうか。
やはり茶色い画面に岩を描いた《現実と現実と現実》(930mm×747mm)には、岩が、水が滴り落ちてくる縦軸(上端・下端)の世界、岩が刺さる地である左端の世界、岩が光の中に見えなくなる右端の世界の3つの世界が同時存在する。すなわち、それぞれの世界が現在、過去、未来であり、現在において過去も未来も実在することを訴えている。だから胃のような形を描いた《対立のない場所》(475mm×475mm)とは、過去と未来とが実在する現在なのだ。そう解することで全ては腑(胃)に落ちる。