可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 萩原亜美個展『Palm-Sized Stories』

展覧会『萩原亜美「Palm-Sized Stories」』を鑑賞しての備忘録
REIJINSHA GALLERYにて、2023年8月25日~9月8日。

萩原亜美の絵画展。

《A window of consciousness》(410mm×318mm)には、赤茶色の煉瓦造りの建物の窓が画面一杯に描かれる。そのガラスには落書きによって汚れている。他人の毀誉褒貶に惑わされることなく、自らの目で世界を眺めなくてはならない。
《Flower Arrangement》(333mm×242mm)では、深紅のロングトレーンのドレスを身に付けた女性が美しい背中を見せて佇む。彼女の前には薔薇を生けた硝子花瓶の置かれたテーブルがある。1本の紅い薔薇が、花瓶から浮遊する。世界を変えるのは、花瓶から花を発射させる想像力。女性のドレスの豊かな裾も炎と噴煙であり、彼女もまた打ち上がろうとしている。
《PINBALL》(530mm×330mm)は遊技機のピンボールを描いた作品。右下から発射された銀色の球がレーンの右上を転がっている。ゲームは始まったところばかり。点数を表示した的などの背景には大きく羊の横顔を描き、入道雲の湧いた空には空飛ぶ円盤(宇宙船)が浮かぶ。自動車、ワイングラスを持つ手、ヌードの女性、犬、目など様々なイメージの描かれたプレイフィールドは賑やかだ。キャビネットの右上の隅には、何かがぶつかって開いた穴が見える。そこには"HOLE TO ANOTHER UNIVERSE"と落書きされている。プレイフィールドを外れた先に別世界(ANOTHER UNIVERSE)が広がることが示唆される。ゲームオーヴァーなど、たかが世界の終わり(Juste la fin du monde)に過ぎない。
《YELLOW CIRCLE》(1303mm×1940mm)には9列×11行で総計99のイメージを映画の絵コンテのよう並べている。恋人を失って塞ぎ込み、家に引き籠もっていた青年は、友人から哲学の講義を録音したCDを送られる。オレンジ、皿、CD、針金の束、時計の文字盤、スノードームなど、円や球のイメージが繰り返し画面に現われる。CDを「再生」した青年は、オレンジを庭に来る青い鳥に差し出してやった後、粘土を手にして、円相の立体作品を作る。スノードームが象徴する過去の思い出に浸って閉じ籠もる生活とは別の、新たな世界の創造である。すなわち青年は別世界(ANOTHER UNIVERSE)に「再生」するのである。
《HBD》(1070mm×920mm)は鏡にごてごてとしたバースデーケーキを描き出した作品。鏡に映ることで、人は鏡の中の別世界へと入り込むことができる。別世界に入り込むとは、今とは異なる新しい自分に生まれ変わることだ。閉ざした窓を開き、新たな世界へ飛び込むことを作家は祝福している。作者の"Happy Birth Day!"とは、"Welcome to Another Universe!"であった。