展覧会『岡安秀士個展「みみをすます/Whisper of the Midnight」』を鑑賞しての備忘録
銀座 蔦屋書店アートウォールにて、2022年10月29日~11月18日。
絵画3点と陶製のフィギュア「Midnight Tour」シリーズ15点で構成される、岡安秀士の個展。
《Midnight Train》(1219mm×1168mm)は、地下鉄の車内を描いた作品。座席には寄り添って男の手にしたスマートフォンを眺めるカップル、両手で支えるスマートフォンを見詰める野球帽の男、大麻の鉢を脇に俯いて煙を燻らす男などの姿があり、車両の奥には立っている乗客の姿もある。アンリ・マティスのダンスのポスターが掛けられ、トランペットを吹く人の影がドアの向こうに覗く。窓の外には海が広がり、満月が顔を出している。床には踏み潰されたプラスティックの容器が落ちていて、その脇には腹這いになって犬がカップルの姿を見詰めている。
《Sleep Walker》(1219mm×914mm)は黄色い看板の食料雑貨店の前を俯き通り過ぎる青年の姿を描いている。彼のシャツやデニムのパンツが、激しく波打っている。青年の周囲の人物たちのパンツも揺らいでいる。地面のコンクリートのパネルや店の煉瓦やシャッターなどの直線によってその揺らぎは強調される。流されている姿にも遊離している姿にも見える。足下には瓶や缶、マスクなどが落ちている。店の窓に貼られた黒い猫のイラストが青年(画面手前)を見詰めている。
流されている姿にも遊離している姿にも見える。
《Whisper of the Midnight みみをすます》(3150mm×1270mm)は、眠る女性を中心に室内と街並の景観を組み合わせた作品。絵の具を溶いた皿や筆を挿した器、飲みかけや食べかけ、フィギュアなど室内にあるものと、建物やネオン、海や山、街を行く人々の姿などが、樹木(枝葉)のイメージを槍霞のように利用するなどして、違和感なく重ねられている。ビルには高層階に擬態する画集などの書籍や詩集が積まれている。その中には、作品の題名にもなっている、谷川俊太郎の『みみをすます』も見える。「みみをすます/いつから/つづいてきたともしれぬ/ひとびとの/あしおとに/みみをすます」作品である。音を頼りに喚起された映像は、リニアな思考を揺るがせ、一点透視図法のような遠近法とは異なる世界を構築する。「(ひとつのおとに/ひとつのこえに/みみをすますことが/もうひとつのおとに/もうひとつのこえに/みみをふさぐことに/ならないように)」。本作品にも、囓られたリンゴやスイカ、フライドチキンの骨などが道に落ちている。他の作品同様、地べたに対する関心が見受けられる。地に足が付いている姿勢は揺るがない。「みみをすます/みちばたの/いしころに/みみをすます」。また、眠る女性に目を向けるネコの姿が描かれ、主人公(?)に注がれる動物の眼差しを描かれている点でも他の作品と共通する。
3作品を共通して支配する青は、ブルーアワーを感じさせる。明けない夜はない。もうすぐ夜が明ける。