可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 すずきしほ個展『午後3時の植物園』

展覧会『すずきしほ個展「午後3時の植物園」』を鑑賞しての備忘録
SAN-AI GALLERY +contemporary artにて、2023年8月6日~12日。

植物や動物などをシンプルな線で親しみのあるイメージに変換するとともに、描面の多様な表現の差異を試みるべく、キャンヴァスや紙に描いた絵画の他、描画と刺繍によるクッション作品、モビールも併せて提示する、すずきしほの作品展。

クッション作品《お気に入りの芝生》(430mm×340mm)に見られる黄色いダイヤ型の星、五彩饅頭の断面のような虹、バランのような植物などのモティーフは、クッション作品《星の角砂糖》や《虹色の角砂糖》などとして会場に鏤められ、鑑賞者が作品の世界に入り込むインスタレーションとして会場が構成されている。
濃いグリーンの角皿に載った大福のようなイメージを刺繍・描画したクッション作品《おやつの時間》(200mm×170mm)から、展覧会タイトルの「午後3時」とは「八刻」、すなわち「御八つ」から選ばれたものと解される。黒い皿にピンクと白の大小の大福を並べた(あるいはイチゴのアイスクリームに生クリームを添えた)ような絵画《仲良しこよし》(273mm×273mm)、イチゴ味のババロアにカラフルなチョコスプレーをトッピングしたような絵画《飴のティアラ》(410mm×410mm)が並び、濃い緑色の茎の先に白い十字の花を咲かせるスイセンの如き植物を6本描いた絵画には《本日のグリーンティー》(410mm×410mm)と題されている。他方、展覧会タイトルの「植物園」は、植物園に不可欠の温室によって、和菓子のように季節感を演出するのではなく、一年中楽しめるおやつ――大福にもババロアにもアイスクリームにも自在に変化するもの――として作品を提示する狙いあるのではなかろうか。

絵画《仲良しこよし》は、ほとんど生地のままの画面上部3分の2と、黒く塗り潰した画面下部3分の1を背景に、ピンクと白の大小の大福(あるいは苺アイスの生クリーム添え)のようなモティーフを土壁よろしく、ざらりとした筆跡を残すことで、色とともに画面に変化をもたらしている。単純化されたイメージは、背景の境界に入れられたオレンジ色のラインと相俟って、熊谷守一を思わせる手練(しゅれん)を感じさせる。

絵画《きらめく富士山》(455mm×530mm)には、白みがかった茶色を背景に、短線をいくつか鏤めた白い山肌とグリッターで輝く三峯の山が描かれている。山頂の周囲はピンクで円状に広げ、後光のような表現が施してある。もこもことした先端、先端部の輝き、表面に散らされる短線による装飾の3要素は《飴のティアラ》やピンクのアイスクリームにチョコレートを添えたようなクッション作品《煌めく石ころ》などにも見られる、作家に特徴的なモティーフである。3要素は、聖なる要素(輝き)が依代(先端部)としての絵画にに降臨する(短線の散らばり)ために存在するのかもしれない。