可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 タナベルン個展『#多分風景』

展覧会『新世代への視点2023 タナベルン展「#多分風景」』を鑑賞しての備忘録
藍画廊にて、2023年7月24日~8月5日。

短い描線を重ねた風景をジェルメディウムや水性ニスによってパッキングするように提示する絵画作品8点で構成される、タナベルンの個展。

《夏の日のベンチ》(1455mm×894mm)には、公園か河川敷か、草生した屋外に置かれた緑色の背凭れの無いベンチが手前から奥へと3つ並んでいる。画面を支配する濃い緑色は、ベンチの座面が作る濃い影とともに強い陽射しを受ける夏を想起させる。細かな線を縦横に連ねることで塗り込められた画面は、ジェルメディウムによりコーティングされ、夏を真空パックするかのようだ。ベンチや草といったモティーフは抽象化され、着物の襲色目よろしく、色の取り合わせによって季節のリアリティを鑑賞者に喚起することが狙われている。記号としての風景故に展覧会タイトルに#を付しているのだろう。

《看板》(1455mm×894mm)は、近景に白い案内板、遠景に稜線の上に広がる夕焼け空を描いた作品。縦横の短線で描き出した夕空や山はタータンチェックのよう。白い案内板の立つ周囲は既に暗くなっている。縦に長い案内板とその足とが視線を夕焼け空から垂直に下方へと視線を誘導する。秋の日は釣瓶落とし、なのだ。

《西日》(803mmm×803mm)は、ペールオレンジの空に聳える団地(?)を描いた作品。ジグソーパズルのピースのような建物の窪みに夕焼け空が嵌まる。それは西日を受け止めていることを象徴的に表現している。

《うみぞい》(1620mm×1620mm)は、対岸の山(?)に向かって水平に広がっている海を斜めに切り取る道(堤防?)の作る直角三角形、水面の明るい部分の楕円形の断片、山並、雲の浮かぶ空で構成される、湾の光景。空は未だ青いが雲は夕陽を浴びてオレンジに照り映えている。海面は既に暗くなっている。その海面に姿を見せる明るい緑色の楕円(の断片)はゴルフ場のグリーンのよう。太陽のラウンドはパットを決めれば終了だ。