可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 山口由葉個展『線をひっぱる』

展覧会『山口由葉「線をひっぱる」』を鑑賞しての備忘録
TAKU SOMETANI GALLERYにて、2023年6月10日~7月2日。

絵画9点で構成される、山口由葉の個展。

《林と松》(1620mm×2273mm)は、画面左側にモスグリーンなど緑の幅のある線で針葉樹のシルエットを描いて針葉樹林を、画面右隅に拡がる暗緑色の闇を背景に中央から右上方向にを僅かに赤みがかる灰色の線などで松を描いた作品。「針葉樹林」は、針葉樹1本ごとに緑系統の色のいずれかを用いて、比較的幅の広い筆を払って素早く大胆に表わし、その集合によって遠くから眺めた林のイメージを作っている。「松」は灰色(灰桜?)でVを重ねて脇枝を、さらに緑の細かな線で針葉(尋常葉)を描き込み、近くから観察する表現を採用している。「針葉樹林」のマクロと「松」のマクロとが接合されている。「木を見て森を見ず」にならないよう、鑑賞者に注意を促しているようだ。また、「針葉樹林」のモスグリーンの樹影の左側には白い絵具が塗られ、背後には明るい黄が覗く。その光の表現は、画面右隅の"」"型の暗緑色の闇と対照を成している。「松」は、闇に向かって枝を伸ばす。一旦右下方向へ傾斜してから右上へ上がることで力強さが演出されている。枝の背後には黄色が覗くとともに、枝先には新芽を表現する黄色い点が描き入れられているのは、「松」が闇に光をもたらそうとしている様子を示すのだろう。「線をひっぱる」ことは境界を区画して分断することではなく、電線ないし光ファイバーで繋ぐことなのだ。
《海に浮かぶ船》(650mm×530mm)の暗い海に漂う舟が黄色く輝いているのは、やはりメディアとしての絵画の象徴であろう。絵画の力とは、ちょうど助詞「と」の働きのように、マクロとミクロ、光と闇のように対極にあるものさえ容易く繋げてしまうことにある。《木洩れ日》(455mm×530mm)では遠景の山越し(?)の光が前景の木々の間を抜けて漏れ伝わるで繋ぐ様子――ここにも電線ないし光ファイバーが認められる――が描かれていると思しき作品であるが、画面中央で炸裂する緑の鳥らしきものの異物感は、少なくとも解剖台の上でのミシンとこうもり傘との偶然の出逢いに匹敵するが、絵画は、「と」の力を発揮して、呆気ないほど簡単に全てを呑み込み、波の立った水面≒画面は再び落ち着きを取り戻すのである。