可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 糸会グループ展『絵の辻』

展覧会『都美セレクション グループ展 2023 絵の辻』
東京都美術館ギャラリーCにて、2023年6月10日~7月2日。

作家支援として実施される企画公募による展覧会「都美セレクション グループ展」。2023年度に選出された3グループのうちの1つ、伊勢周平、小左誠⼀郎、尾関諒、中嶋典宏の4名で構成される糸会による絵画展。

東京都美術館ではアンリ・マティスの回顧展が行われている。以下では、マティスを彷彿とさせる尾関諒の作品について取り上げる。

尾関諒《グラス 戸棚》は、茶の地色と左端に縦に延びる植物の蔓の文様で表わした棚に、上に4つ下の3つの7つの脚付きのグラスが並ぶ様を描いた作品。上の段右側に置かれた菱形のカットグラスに光が当たって、画面の下端に向かって三角形状にオレンジと黄の斜め格子の光を拡げる。画面下段には、ガラス扉の装飾であろうか、左と右とで捲いた蔓状の模様が大きく配されている。くすんだ色味とざらついた絵肌によって、光も闇もともにコントラストが抑えられ、柔和に調和した世界が立ち現われる。
尾関諒《グラス》は、形の異なる3つの脚付きのグラスが、左上から右下方向へと風を孕んで膨らんだカーテン越しに見える様を描いた作品。面白いのは、グラスが恰も植物が風に揺られるように右に左にと曲がる点で、半透明の光の膜となったカーテンが薄暗い空間に置かれたグラスに生気を与えたかのようだ。カーテンの掛からない部分がグラスの形の蔭を作り、3つのグラスと呼応している。
尾関諒《人 部屋》は、半裸の女性とその脇にシルクハットの男性が立つ緑でまとめられた室内を描いた作品。床に敷かれた大きな植物の文様の絨毯と、窓を飾るS字を連ねる植物文様の格子が、無地の緑の壁やカーテンの中で際立つ。男女の下半身は絨毯の文様が透けている。人物はグラスのように表現されているのだ。飾り窓の女とその客は、戸棚の中で密やかに輝くグラスに見立てられている。
尾関諒《女 部屋》は、観葉植物に囲まれた中、ソファに横たわる女性の姿を描いた作品。青いソファに横たわる女性はオレンジの肌に黄色の髪とソファに対して補色が用いられているが、明度の低さとざらついた絵肌とによって、落ち着いた雰囲気を醸す。室内全体に配された種々の観葉植物の茎や葉の形、ソファの下の絨毯の幾何学模様や植物模様、棚ないし窓や額縁の格子など、画面には多くのモティーフが描かれながら紫の薄暗い部屋の中で静謐を保っている。オダリスクを思わせる裸婦、植物文様などは、アンリ・マティスの世界に通じるものが多分にある。