可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『楽園』

映画『楽園』を鑑賞しての備忘録
2019年の日本映画。
監督・脚本は、瀬々敬久
原作は、吉田修一の小説「青田Y字路」と「万屋善次郎」(『犯罪小説集』所収)。

長野県の山間部の地方都市。夏祭りの会場の一角で女性(黒沢あすか)が男に殴られていた。東南アジア出身の彼女は、みかじめ料を払わずに露店を開き、暴力団員に見つかったのだ。息子の豪士(綾野剛)が法被姿の面々に助けを求め、藤木五郎(柄本明)が話をつけてその場は収まった。五郎は親子の窮状を見かね、後日、豪士に職を世話することにする。豪士との面会のために家に戻った五郎は、血相を変え慌てふためく妻・朝子(根岸季衣)から思いもよらぬ知らせを受ける。嫁(篠原ゆき子)が、孫の愛華(堰沢結愛)が6時になっても帰宅しないと連絡してきたというのだ。3時頃、Y地路で湯川紡(筧礼)と別れてからの愛華の足取りが分からない。地元の人たちの協力を得てY地路付近を捜索すると、愛華の赤いランドセルだけが見つかった。愛華の失踪から12年。紡(杉咲花)はアルバイトの後、祭り囃子の稽古に参加して、田んぼの中の人気の無い真っ暗な道を一人自転車で走っていた。紡は後方からスピードを落として迫る車に動揺して転倒してしまう。運転していたのは豪士だった。豪士は紡を家のそばまで送り、転倒した際に壊れてしまった笛を弁償することにする。7歳のときに移り住んで以来、差別を受け続けてきた豪士の孤独と優しさに、愛華の失踪の責任を一人背負いこんで生きてきた紡には共鳴するところがあった。紡は自分が笛を吹く夏祭りに豪士を誘う。そして、夏祭りの当日。紡は豪士の姿を見つけられずにいた。そこへ突然、豪士に関するニュースが飛び込んでくる。

 

緊張感を途切れさせること無く、地方都市の閉鎖的な環境の禍々しさが描かれていく。それを体現した役者陣、とりわけ女優たちの演技が冴える。キャラクターに乗り移る凄みを感じさせる黒沢あすか根岸季衣、激しい欲望を抱えながらそれを押さえ込む片岡礼子杉咲花はヒロインの輝きを放つ。
地方を描くことで、日本という国の現状が炙り出されているように感じられた。