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芸術鑑賞の備忘録

映画『冬時間のパリ』

映画『冬時間のパリ』を鑑賞しての備忘録
2018年のフランス映画。
監督・脚本は、リビエ・アサイヤス(Olivier Assayas)。
原題は、"Doubles Vies"。

作家レオナール・シュピーゲル(Vincent Macaigne)が、老舗出版社ヴェルトゥイユを訪れ、編集部部長で、自身の長年の担当編集者でもあるアラン・ダニエルソン(Guillaume Canet)に会う。レオナールは付箋をびっしり貼ったキャルスタン(Jean-Luc Vincent)の政界を舞台にしたモデル小説『沼地(Marécage)』に目をとめる。政治家が内容をめぐり提訴して話題になっていた。二人は、近くの食堂に場を移し、電子書籍など近時の出版事情について語り合う。レオナールの訪問目的は自身の恋愛遍歴を赤裸々に綴った最新作『終止符(Poin Final)』の原稿の扱いの確認であった。アランは内容に目を通してくれてはいたが、最終的に聞き出せたのは出版しないとの返答だった。アランの帰宅を、長年連れ添う妻セレナ(Juliette Binoche)が出迎える。ルードヴィヒ(Lionel Dray)やヴィクトリーヌ(Sigrid Bouaziz)らアランの親しい仕事仲間が既に集まっている。人は本を読まなくなり、本は売れなくなったが、ツイートやブログなどのを通して多くのテキストが生産され消費されている。飲みながら出版業界の展望が取り沙汰される。セレナは1冊の本を持って行けば、電子リーダーで「書棚」を持ち運ぶ必要も電源を気にする必要も無いと主張するが、アランは老舗出版社が変わらないためには変わる必要があると、電子書籍化事業をロール・ダンジェルヴィーユ(Christa Theret)を起用して進めていた。そして、アランはロールと密かに関係を持っていた。セレナは舞台からテレビに活躍の場を移した女優で、心理分析官の復讐劇『共謀(collusion)』(よく衝突(collision)と間違われる)シリーズで主役をはっていた。ヒットしているためシーズン4の依頼も舞い込んでいるが、暴力的な展開に情熱は冷めている。撮影の休憩中、マネージャー(Stéphane Roger)に仕事の愚痴とともにアランの浮気を相談する。レオナールは、パートナーのヴァレリー(Nora Hamzawi)に、1年かけて書き上げた原稿が出版されないと泣き言を言う。慰めて欲しいのと尋ねるヴァレリーにレオナールは頷くが、尊敬する国会議員ダヴィッド(Nicolas Bouchaud)の秘書として飛び回るヴァレリーは忙しいと拒否、アランは有能なのだから彼が認める内容に書き換えればいいと突き放す。失意のレオナールは、多忙なヴァレリーに養われながらも、セレナと密会を重ねていた。レオナールは制作のためにも女性との関係を重ねることは重要だった。だが、アルルの書店のブレイズ(Antoine Reinartz)に招かれてトークショーを開催すると、聴衆(Raphaël NealとBenjamin Bellecour)から、女性のプライヴァシーを売って自分だけ稼いでいると厳しい非難を受けるのだった。

 

会話劇。出版をめぐる事情に関心がある向きはより入り込める。
原題は"Doubles Vies"。カップルのそれぞれが別の人物との関係を持っているということを始め、二重性・二面性、あるいは裏表がモティーフとして至る処に鏤められている。それを追うだけでも面白い(例えば"Juliette Binoche"という女優まで会話に登場させている!)
Vincent Macaigneが理由はもう一つ定かではないがモテるのが腑に落ちる作家役を好演。