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芸術鑑賞の備忘録

映画『パリの恋人たち』

映画『パリの恋人たち』を鑑賞しての備忘録
2018年のフランス映画。
監督は、ルイ・ガレル(Louis Garrel)。
脚本は、ルイ・ガレル(Louis Garrel)、ジャン=クロード・カリエール(Jean-Claude Carrière)、フロランス・セイボス(Florence Seyvos)。
原題は、"L'Homme fidèle"。

大学でジャーナリズムを専攻したアベル(Louis Garrel)は、学生時代からの恋人マリアンヌ(Laetitia Casta)の部屋に同棲し、市井の声を集めるジャーナリストとして活動している。ある朝、出勤前に、マリアンヌから妊娠の報告を受ける。だがその子の父親はアベルではなく、アベルの学生時代の友人ポールだという。1年近く前からポールと関係があったというマリアンヌは、ポールの家族にも挨拶を済ませ、結婚を決めたという。日取りまで決めたのかと問うと、10日後だと告げられ、それまでに荷物をまとめて出て欲しいとせがまれる。アベルは取り乱すことなく冷静に受け答えし、その理性的な対応にマリアンヌは感謝する。アベルはそれほどのショックではないと考えるが、歩き慣れたアパルトマンの階段を踏み外すほど衝撃は大きかった。10年近くの歳月が流れた頃、アベルのもとにポールの訃報が届く。マリアンヌとポールの夫婦のことはすっかり頭から消え去っていたが、葬儀でマリアンヌの姿を目撃したアベルは、マリアンヌに対する想いが変わらずにあることを悟る。車でマリアンヌと息子のジョゼフ(Joseph Engel)をアパルトマンまで送り、マリアンヌに連絡して欲しいとねだる。後日、マリアンヌから連絡をもらったアベルは、食事に出かけることにする。マリアンヌのアパルトマンで食後の珈琲を飲むことになったアベルは、マリアンヌが珈琲を淹れている隙にジョゼフから父は母に毒殺されたと告げられる。アベルは検視の手続などを説明してジョゼフを諭そうとするが、母親と肉体関係のある医師が死亡診断書を書いたから死因は問題にならなかったのだとジョゼフに切り替えされる。アベルが医師の名を問うと、ジョゼフは花みたいな名前だったとしか記憶しておらず、アベルが次々に花の名を挙げると、Pで始まる花の名前だったと言うのだった。
ポールの妹イヴ(Lily-Rose Depp)は兄の友人アベルに対して恋心を抱いていた。街でアベルにすれ違ってもイヴは全く気付かれることがなく、余計に恋心は募っていった。陰から写真を撮ったり、果ては鍵のかかっていなかったアベルの車に入り込んだこともあった。アベルでない男性と交際したこともあったが、ときめくことはなかった。兄の葬儀でアベルを見かけたイヴの心は高鳴ったが、それと同時にアベルがマリアンヌに未だ愛着を抱いていることを悟ることにもなった。それでも街で遭遇したアベルがイヴに気付き、かけていたマフラーをかけてくれたことに有頂天になり、自分が成長したことを実感する。そして、イヴは、恋敵であるマリアンヌに対してアベルをめぐり対決を挑むことにする。

 

二股をかけて悪びれるところのないマリアンヌ、ストーカーのように暴走する思春期をこじらせたイヴ、サスペンス・ドラマのマニアで刑事気取りのジョゼフ、訪れる状況に抗うことなく受け入れていくアベル。それぞれの性格は誇張され戯画化されながらも、それによって人間関係の機微や気持ちの複雑さをうまく描き出している。
レストランのオーナー(Bakary Sangaré)と従業員(Kiara Carrière)とのやり取りをはじめ、ちょっとしたコメディの要素を挟み込むことで、軽やかさをうまく保つバランス感覚も心憎い。