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芸術鑑賞の備忘録

映画『ジョジョ・ラビット』

映画『ジョジョ・ラビット』を鑑賞しての備忘録
2019年のアメリカ映画。
監督・脚本は、タイカ・ワイティティ(Taika Waititi)。
原作は、クリスティン・ルーネンズ(Christine Leunens)の小説"Caging Skies"。
原題は、"Jojo Rabbit"。

第二次世界大戦末期のドイツ。10歳の内気な少年「ジョジョ」ことヨハネス・ベツラー(Roman Griffin Davis)は、ヒトラーユーゲントの合宿に参加する朝を迎えた。鏡に向かって気持ちを奮い立たせようとする彼を忠誠心なら一番だと励ますのは空想上の話し相手であるヒトラー総統(Taika Waititi)。意を決したジョジョは親友のヨーキー(Archie Yates)とともに合宿へと向かう。合宿で少年たちを指導するのは、戦場で右目を失ったクレンツェンドルフ大尉(Sam Rockwell)や、18人の子供を産むことで国家に奉仕したというミス・ラーム(Rebel Wilson)ら。参加者はナイフを用いたり模擬的な白兵戦を行ったりと様々な訓練を重ねていく。森の中で訓練している際、年長者のクリストフ(Luke Brandon Field)やハンス(Sam Haygarth)によって集められた子供たちが殺戮を畏れてはならないとけしかけられる。おどおどしていたジョジョが目をつけられ、この場でウサギを殺すよう命じられる。ジョジョは悩んだあげくウサギを逃がそうとするが、ウサギは即座に捕まえられてその場でクリストフに殺されてしまう。脱走兵の父親と同じ臆病者だと蔑まれたジョジョは泣きながら逃げ出し、皆から「ジョジョウサギ」と囃し立てられる。森の中に一人でいると総統が現れ、ウサギは本来勇敢な動物だと諭される。意を決したジョジョは、心配して探しに来てくれたヨーキーを置き去りにして、手榴弾の投擲訓練に駆け込み、クレンツェンドルフ大尉の手から手榴弾を奪い取って思い切り放り投げる。だが木に当たった爆弾は跳ね返ってジョジョのそばに落ち、爆発してしまう。顔面や足に大怪我を負ったジョジョが恢復すると、母親のロージー(Scarlett Johansson)は顔の痕を気にするジョジョを外へと連れ出す。ロージージョジョの事故の後に事務職へと左遷されたクレンツェンドルフのもとへ向かい、ジョジョに役目を与えるよう要求する。ジョジョはポスター貼りや召集令状の配達などの任務を割り当てられることになる。ある日、一人家にいたジョジョは、2階にある亡き姉インゲの部屋から物音がするのを聞く。

 

ナチスドイツの少年の心に総統が棲み着いたのは、ビートルズが若者の心をつかんだのと何ら変わらない当然の流れだったのだと冒頭シーンからThe Beatlesの"I Want To Hold Your Hand"が流れるオープニング・クレジットまでで鮮やかに示す。このような作品こそドイツを舞台とする作品を英語で制作する意義がある。
これだけキャラクターの造形とキャストがはまっている作品も珍しいのではないか。内気な少年であるがゆえに総統や国家に自らを重ねていくジョジョ(Roman Griffin Davis)、ジョジョに似た性格で気立てのいい少年ヨーキー(Archie Yates)、いい加減で頼りない体で状況をやり過ごすクレンツェンドルフ大尉(Sam Rockwell)、カリスマが虚像であることを常に晒している総統、狡猾で意地の悪いゲシュタポのディエルツ大尉(Stephen Merchant)、生き延びるために感覚を研ぎ澄まし知恵を絞るユダヤの少女(Thomasin McKenzie)、などなど。その中でもジョジョの母親ロージーが素晴らしい。ロージーをとらえる不自然なカメラワークの理由がこれ以上ないくらいの切れ味で明らかになる見せ方にも痺れる。また、その伏線ともなる「行進」動作は、ロベルト・ベニーニ監督の『ライフ・イズ・ビューティフル(La vita è bella)』へのオマージュだろう。
靴がダンスを、あるいは地に足がついているのかどうかということを、さらに靴紐を通じて愛情や成長を伝えている。