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芸術鑑賞の備忘録

映画『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』

映画『ロニートエスティ 彼女たちの選択』を鑑賞しての備忘録
2017年のイギリス映画。
監督は、セバスティアン・レリオ(Sebastián Lelio)。
原作は、ナオミ・オルダーマン(Naomi Alderman)の小説"Disobedience"。
脚本は、セバスティアン・レリオ(Sebastián Lelio)とレベッカ・レンキェビチ(Rebecca Lenkiewicz)。
原題は、"Disobedience"。

ロンドンのシナゴーグ。ラビのラヴ・クルシュカ(Anton Lesser)が ドヴィッド・クパーマン(Alessandro Nivola)に支えられながら説教を行っている。神は間違いを犯すことのない天使と神の創造したままに生きる獣との間に、自由な意思を持つ人間を創造した。説教の途中でクルシュカは倒れ、病院に運ばれる。
ニューヨーク。写真家のロニート(Rachel Weisz)がスタジオで全身にタトゥーを入れた老人(Trevor Allan Davies)を撮影している。疲れたと訴えるモデルに後5分と告げてポーズをとらせて撮影を続けていると、アシスタント(Sophia Brown)から緊急の電話を告げられる。長く音信不通だった父ラヴ・クルシュカの死を知らされたロニートはバーで酒をあおり、行き掛かりの男とセックスし、スケートリンクでスケートをする。
ニートは意を決してロンドンに向かう。空港から直接向かったのはドヴィッド・クパーマンの家。ドヴィッドは12,13歳の頃から父に師事しており、ロニートもよく知った人物だった。出迎えたドヴィッドはロニートの来訪に驚き困惑した様子。ロニートは辞去しようとするがドヴィッドに中へ導かれる。集まる弔問客の多くは、ラビである叔父モシェ・ハートグ(Allan Corduner)の妻フルマ(Bernice Stegers)を例外として、ロニートに良い顔をしない。キッチンに移ったロニートはドヴィッドが結婚したことを知る。彼が相手を誰か答えないうちに、料理を運ぼうとキッチンに現れたエスティ(Rachel McAdams)の姿を目にする。ロニートは彼女と彼のやり取りからエスティがドヴィッドの結婚相手だと知る。ロニートはドヴィッドの家に泊まることになる。部屋に置かれた新聞には、ラヴ・クルシュカの訃報が掲載されていたが、子どもはいないと報じられていた。ロニートは、ドヴィッドとエスティとともに叔父モシェの家での晩餐に招かれる。ラビのゴールドファーブ(Nicholas Woodeson)の妻リベッツィン(Liza Sadovy)は、孫が大勢いるとか結婚が幸せであり神の御心にかなうといった話題で、未婚のロニートを露骨に挑発する。ロニートは少年の薬物汚染の話題などを持ち出して応酬した後、一足先に立ち去る。翌日ロニートは改めて叔父モシェのもとを訪れ、父の家の処分について尋ねる。叔父は遺言書を示して、全てはシナゴーグへ遺贈されたことを知らせた上、鍵を渡して私物を運び出すよう告げる。エスティはスーパーで居合わせた知り合いから今し方ロニートを見たと知らされる。ロニートを追ったエスティはともにラヴ・クルシュカの家へ向かう。懐かしい部屋と品々とを見ているうちに、二人の間に交わされたかつての愛が蘇る。エスティは思わずロニートにキスする。ロニートに途中で拒まれたエスティは、ロニートに会いたいがために自分がニューヨークのシナゴーグに訃報を伝えたのだと告白するのだった。


(以下では、結末に関連した事柄も記している。)

ニートにとって故郷が「針のむしろ」であることが示され、またそこに留まったエスティにとっても居心地の悪い空間であり続けたことが明らかにされていく。そして、離ればなれにならざるを得なかった二人が再会を果たした後、思いを遂げるまでの丁寧な描写が、二人の情交シーンを極めて切ないものに結晶させることに成功している。
ニート・クルシュカ(Rachel Weisz)が同性を愛するという自らの自然に従うことは、律法から外れること(=disobedience)になる。人々から敬愛されるラビ(Anton Lesser)を父に持つ彼女は故郷を離れざるを得なかった。だが律法を探求した父が最後に命がけで発したメッセージは、自由意志を持つ人間は選択する自由を持つという、娘に宛てられたものだった。そのことに気付き、葛藤しながらも受け容れようと努力するドヴィッド・クパーマン(Alessandro Nivola)は、師が見込んだ力量のあるラビであった。
セバスティアン・レリオ(Sebastián Lelio)は、『ナチュラルウーマン(Una Mujer Fantástica)』(2017)においても「社会規範」から逸脱しながら(=fantástica)、素晴らしい(=fantástica)「女性」を描いた監督。