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芸術鑑賞の備忘録

映画『ストックホルム・ケース』

映画『ストックホルム・ケース』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のカナダ・スウェーデン合作映画。92分。
監督・脚本は、ロバート・バドロー(Robert Budreau)。
原作は、ダニエル・ラング。
撮影は、ブレンダン・ステイシー(Brendan Steacy)。
編集は、リチャード・コモー(Richard Comeau)。
原題は、"Stockholm"。

 

1973年のストックホルム。港に停泊したボートの上。黒い革のジャケットとパンツに身を包みロングブーツを履いているラース・ナイストロム(Ethan Hawke)が、口髭を整え、かつらをセットし、サングラスをかけて、ハットを被る。「俺はカイ・ハンソン、俺はカイ・ハンソン」と身支度をしながら発声練習をする。ボートを下りたラースはタクシーに乗り込む。そこを左に折れてくれ。コンサートですか。運転手(Gustaf Hammarsten)がラースの風貌から判断して声をかける。車を降りたラースは、ザリガニパーティーのフラッグガーランドの飾り付けがされた公園を通り抜け、向かうは銀行「クレディットバンケン」。ちょうど建物から老婦人(Nonnie Griffin)が出てくるところで扉を開けて通してやる。カウンターに向かったラースはカバンを降ろして機関銃を取り出すと、天井に向けて発砲する。その場の客や行員たちが皆床に伏せる。カウンターにいた男性行員(Anders Yates)にロープを渡して女性行員のクララ(Bea Santos)を縛らせる。姿を現した頭取(Vladimir Jon Cubrt)は、若い女性客(Linzee Barclay)が倒れて足を痛そうにしているので撃たれたのかと声をかける。ラースはそいつが勝手に転んだだけだと言い放ち、カウンターの外にいた人々にすぐに出て行くよう命じる。カウンター内の女性行員ビアンカ・リンド(Noomi Rapace)に警報を鳴らしたか確認すると、ビアンカが頷く。ラースはビアンカに警察に電話するよう要求する。警察署では署長のマットソン(Christopher Heyerdahl)がザリガニを描いたエプロンをして女性たちと写真撮影を行っていた。ヤーコプソン(John Ralston)が署長に電話を取り次ぐ。後にしろ。クレディットバンケンを占拠中の機関銃を持ったアメリカ人からです。クレディットバンケンだと? 署長が電話に出る。10分以内に来ないと私の顔面を撃つ。ビアンカはラースの要求通り喋るとすぐに受話器を置く。一足早く駆け付けた警官が銃撃してきたのがラースは拳銃に命中させて撃退する。マットソンが現れると、ラースは服役中のグンナー・ソレンソン(Mark Strong)をここに連れて来いと要求する。政府に確認しないと無理だというマットソンにいらつくラース。人質がどうなってもいいのかと、マットソンに要求をのませる。トイレに行きたいと訴えるクララ。私もとビアンカ。ラースは交代で行けと指示する。先に行くことになったビアンカは約束通りラースのもとに戻ってくる。グンナーが到着するのに時間がかかるだろうとラースはクララとビアンカを相手にカードゲームを始める。マットソンがグンナーを連れて現れる。ラースは100万米ドルとともに、スティーブ・マックイーンが映画『ブリット』で運転したような自動車を逃走のための車両として要求する。ああ、あれはいい映画だ。銀行の周囲は警官と報道陣とが取り巻いていた。

 

監禁事件などの犯罪被害者が犯人との間に心理的なつながりを築く「ストックホルム症候群」という言葉が生まれるきっかけとなったノルマルム広場強盗事件を描く。
人質となったビアンカ・リンド(Noomi Rapace)のもとに駆け付けたクリストファー・リンド(Thorbjørn Harr)は自分が代わりになると申し出る。ラースに受け容れられなかったクリストファーは、ビアンカが子供たちのために夕食を用意して欲しいと、魚のソテーの調理法などを詳細に必死になって語るのを聞きながら、妻の願いを聞き入れない。夫婦のすれ違い、あるいは夫が妻を軽く遇う様がはっきり見て取れる。ビアンカが日常から離れようという気持ちが生じる背景が浮き彫りにされている。
Ethan Hawkeが飄々とした行動をとる立て籠もり犯を愛嬌あるキャラクターに仕立てて魅力的。全く異なる性格のエヴァレット・ルイスを演じた『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス(Maudie)』(2016)もお薦めしたい。
Christopher Heyerdahlが陰険な敵役として警察署署長のマットソンを演じることで、ラース・ナイストロムの魅力が際立ち、人質たちが彼に惹かれることに説得力を持たせた。