映画『ブレスレス』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のフィンランド・ラトビア合作映画。105分。
監督・脚本は、ユッカペッカ・バルケアパー(Jukka-Pekka Valkeapää)。
撮影は、ピエタリ・ペルトラ(Pietari Peltola)。
編集は、メルヴィ・ユンコネン(Mervi Junkkonen)。
原題は、"Koirat eivät käytä housuja"。
ユハ(Pekka Strang)が一人ボートを漕ぎ、船着き場へと向かう。湖畔のコテージにいた幼い娘エリ(Ellen Karppo)が父親に気が付き、ボートにやって来る。魚を捕まえたよ。魚に手を食べられちゃうぞ。エリが母親(Ester Geislerová)に声をかける。ママも見てよ、パパが魚を捕まえたんだよ。昼食に魚を食べ、ユハが一人寝室で午睡をしていると、泣き叫ぶエリがやって来る。事情を察したユハがコテージを飛び出し、湖に飛び込む。エリ、来るんじゃない! 古い漁網に引っかかった妻は水中で既に息絶えていた。
手術を終えた心臓外科医のユハは同僚の外科医パウリ(Jani Volanen)からテニスに誘われる。予定があるから無理だ、とにべもない。夜遅く帰宅したユハは冷蔵庫にエリ(Ilona Huhta)の誕生日のケーキをしまう。翌朝、目を覚ますとテーブルにはケーキの空き箱とエリからのメッセージが残されていた。ユハは音楽教室にエリの迎えに行く。レッスンが終わるのを待つユハの耳に娘の演奏はまるで入っていない。レッスン修了後、エリはサト先生(Oona Airola)と通路で話していた。演奏会のチケットはサト先生にもらって。演奏会か、ああ。ユハは娘を乗せてピアススタジオに向かう。天体に興味のある娘を誕生日に博物館に連れて行くのが恒例だったが、今年は舌にピアスを開けたいと頼まれたのだった。処置の間、外で待つよう言われたユハは、暗い空間に向かって吸い込まれるように階段を降りていく。奥の方でピンク色の光が輝く空間に、無数のトゲのような突起がつけられた人形のようなものが置かれているのに気が付き、ユハは思わず足を踏み入れる。「人形」に手を触れようとしたとき、暗闇から突然強烈な鞭をくらい、ユハはその場に倒れ込む。さらに鞭で喉を押さえつけられたユハは呼吸ができなくなる。そのとき、ユハの脳裡に妻を救えなかった水中のイメージが鮮明に浮かび上がってくる。そして、窒息の苦しみこそ自分が求めているものだとまざまざと実感される。ユハは、自分を罰してくれたモナ(Krista Kosonen)という女性にすっかり魅了されてしまったのだった。
妻(Ester Geislerová)を救えなかったことから生きる気力を失っていた心臓外科医のユハ(Pekka Strang)が、サディストのモナ(Krista Kosonen)に出会ってSMプレイにのめり込んでいく姿を描く
自らを罰してもらうことで自責の念からの解放を目指すユハ。「悪い犬」となってモナ様に縋り付くのだ。モナ様はお優しいので、そんな「悪い犬」をしっかり調教して下さいます。
ユハが妻の香水をふりかけた妻の服を被ってオナニーに耽るシーンから、ユハの「犬」(=嗅覚)のイメージが臭わされていた。
ユハの被虐嗜好の程度からすると、痛みや苦しみの視覚表現はソフトに抑えられている。痛い表現が苦手な人でも鑑賞可能な範疇にある作品ではないか。
ユハの表情(とりわけラストシーン)が素晴らしい。