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芸術鑑賞の備忘録

映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』

映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のオーストラリア映画
95分。
監督は、ダニー・フィリッポウ(Danny Philippou)とマイケル・フィリッポウ(Michael Philippou)。
脚本は、ダニー・フィリッポウ(Danny Philippou)とビル・ハインツマン(Bill Hinzman)。
撮影は、アーロン・マクリスキー(Aaron McLisky)。
美術は、ベサニー・ライアン(Bethany Ryan)。
衣装は、アナ・ケイヒル(Anna Cahill)。
編集は、ジェフ・ラム(Geoff Lamb)。
音楽は、コーネル・ウィルチェック(Cornel Wilczek)。
原題は、"Talk to Me"。

 

アデレード。コール(Ari McCarthy)が夜の住宅街を急ぐ。ダケット、電話に出ろ! メッセージを見たろ。電話しながらコールは人集りがする邸宅にやって来た。ダケット見たか? 中だよ、いかれちまってる。ダケットについて尋ねながらコールは敷地の中を進む。プールではしゃぐ連中やステージの廻りに屯する連中はダケットを見ていなかった。コールは家の中に入る。弟を落ち着かせてよ。どこにいるんだ? ジェイデンの部屋。ジェイデンがノックするドアにコールが向かう。通報するところだったぜ。ドアを開けろ、本気で言ってんだ。コールがドアの向こうに向かって言う。開けないならドアをぶち壊すぞ。おふくろの家のドアを壊すってのか! ジェイデン(Jayden Davison)が慌てる。コールが思い切り体当たりしてドアをこじ開けた。見える? 奴らがここにいる。ベッドに腰を降ろした半裸のダケット(Sunny Johnson)が呟く。家まで送ってやるから。親父が言ってたよ、あんたが沢山の人を傷つけるって。親父は死んだだろ。あんたは違う。何の話をしてる? コールがダケットを部屋から連れ出す。周りの連中がスマートフォンをダケットに向ける。お前ら何してんだ? 見世物じゃねえぞ! スマホをしまえ! コールが野次馬をどかしているところへダケットが包丁を持って飛び掛かり、刺す。コールが倒れる。悲鳴が上がり、蜘蛛の子を散らす。ダケットは包丁を自らの頭部に激しく突き立てた。
黒い衣装に身を包んだミア(Sophie Wilde)がイヤホンをして亡き母レア(Alexandria Steffensen)とのやり取りを視聴している。親族らがレアの2回忌のパーティーに自宅に集まっていた。父マックス(Marcus Johnson)が叔母が呼んでるとミアに声をかける。
リー叔母さん(Kidaan Zelleke)はレアの連絡先を消去できずに残してあると言う。ミアも同じだと告げる。卒業したらどうするか考えた? お父さんと仕事する?
夜。台所でミアが洗い物をしていてくしゃみをする。風邪か? マックスが声をかける。何? 風邪をひいてる? ああ、そうかな。今日はどうだった? 何? 今日はどうだった? 大丈夫。ミアの電話が鳴る。迎えに来てもらえる? 今?
縁石に腰掛けるジェイムズ(James Oliver)のもとにライリー(Joe Bird)が戻って来る。何処行ってた? 電話してた。姉貴が迎えに来るはずだったんだ。俺のデブったママが迎えに来るはずだった。どっかでチンポ咥えてるさ。ジェイムズが吐き捨てるように言って笑う。一緒に笑うライリー。ジェームズが熱心にスマホで動画を見ている。アレックス(Jett Gazley)の? 奴のはすげえうんざり。どっか俺のママに似てんだ。エルフみたい。エルフって? ファンタジーに出て来るキャラ。うっせえ。奴が煙草を盗りやがった。吸ってんの? 売ってんの。2本売った。痛い奴だな。家に呼ばれたんだ。嫌ってんじゃないの? まあな。タバコ吸ってすぐ癌になるか? さあ。吸うなよ。指図すんな。ジェームズがタバコ1本を取り出し火を点けてライリーに差し出す。やらない。煙がいやなんだ。ガキだな。別の相棒が必要だ。近付いてくる車のヘッドライトに照らされ、ライリーがジェームズにタバコを隠すように合図する。ライリー、ガキがタバコ? タバコなんて吸わないよ。ミア、こいつ噓ついてる。半箱吸った。乗せてこうか? ママが来るからいいよ、どうも。迎えがないならライリーに連絡入れて。癌と楽しんで。タバコを手にするジェームズに声をかけるとミアが車を出す。
車中ではシーアの「シャンデリア」を流してミアとライリーが大声で歌う。突然血相を変える二人。ミアは音楽を消し、車を停める。車にいて。ミアが車を降りる。車に轢かれたカンガルーが道路に倒れ、唸っていた。可哀想。どうする? 獣医に連絡しようか? ライリーが車を降りてミアに尋ねる。手遅れよ。このままにしておくの? 楽にしてやれる? 二人は車に戻る。ミアは車でカンガルーを轢こうとして思い留まる。このままにしておけないよ。別の車が通るでしょ。呻き声を挙げてるけど。ミアはカンガルーを避けて車を走らせる。
ミアはライリーとともに家に入る。ミアは自室のベッドでイヤホンで音楽を聴いているジェイド(Alexandra Jensen)をクッションで叩く。呼ばれてもないのにパーティー気分ってどういうこと? ライリーを迎えに行くのを忘れるなんてどういうこと? ライリーもクッションを姉に投げつける。ごめん、着信に気づかなかったの。もっともな言い訳だね。ママに言い付けるから。止めてよ! 部屋を出て行くライリーにジェイドが叫ぶ。ミアはベッドに載っていたブルドックをどかして自分が坐る。死にかけのカンガルー見ちゃった。道路で、すごく痛々しかった。なんで動物保護団体に連絡しなかったの? 分かんないけど、助からない状態だったし。悲惨な現場にいたくなかった。そういえば、私の電話、無視したでしょ。無視なんてしない。忙しかったの。忙しさが私を無視したってことか。ジェイドのスマホに着信がある。ダニエル(Otis Dhanji)からで、ジェイドはすぐに電話に出る。電話に出ないで! カンガルーをひどい目に遭わせちゃったんだから。ミアはジェイドに覆い被さって電話の邪魔をする。ダニエル、慰めて! ミアがいることを悟ったダニエルは折り返すと電話を切る。仕方ないわね、慰めてあげるわよ。ミアはヘイリー(Zoe Terakes)の降霊会の動画をジェイドに見せる。今晩も降霊会をやってるって。本物かどうか確かめに行こうよ。やだ、私は行かない。

 

ミア(Sophie Wilde)と父マックス(Marcus Johnson)との関係はぎくしゃくしていた。2年前、母レア(Alexandria Steffensen)が自宅寝室で薬物を過剰摂取して救命できなかったのがきっかけだ。自宅で行われた2回忌の集いの後、レアは親友ジェイド(Alexandra Jensen)の弟ライリー(Joe Bird)から姉が迎えに来ないので迎えに来て欲しいと頼まれる。ミアはライリーを送り届ける途中、瀕死のカンガルーが路上に倒れているのを見付ける。ミアは獣医や動物福祉団体に連絡しても無駄と判断したが、苦しむカンガルーにとどめを刺すこともできなかった。ライリーを送ったミアはジェイドの部屋に入り浸る。母の2回忌とカンガルーの件で落ち込んでいるミアはジェイドにヘイリー(Zoe Terakes)の降霊会に一緒に出かけるよう頼む。ライリーはジェイドが迎えをすっぽかした件を母親スー(Miranda Otto)に告げ口しないことを取引材料に、二人に同行する。ヘイリーの降霊会は、ジョス(Chris Alosio)が入手した霊能力者の切断された右手を使って90秒間死者の霊を取り憑かせるというもの。会場にはジェイドの恋人ダニエル(Otis Dhanji)の姿もあった。ミアは最初の体験者として名乗りを上げる。蝋燭を点し、右手を握り、ヘイリーに言われたとおり「話しかけて」とミアが口にすると、死者の姿が目に前に浮かび上がった。「入れてあげる」と言うと、霊がミアに乗り移った。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

ミアは母が自殺したことを受け容れられずにいる。母は何故自ら命を絶ったのか、母に問い質したい。母の2回忌の晩、ミアはヘイリーが行っている降霊会に参加し、母との交信を試みようとする。
ミアはダニエルと恋人になりかけた時期があった。1度手を繋ぐ程の淡い関係だった。それでもミアはダニエルに未練がある。だが親友のジェイドの恋人となったがゆえにダニエルを愛することはタブーになってしまった。
ライリーが降霊会で憑依を体験したいという。年少のライリーには早いと拒否するが、熱意に負けたミアが50秒ならと許可する。ところがたまたまミアの母レアがライリーに乗り移ったがために、レアとの交信を続けたいミアは90秒を超えてライリーに霊を憑依させてしまう。
ミアが夜闇の中で目撃する瀕死のカンガルーはミアの鏡像だ。母親を失い、鬱状態の父親との家は耐え難く、思いを寄せる男性は親友の恋人となって手を出すことができなくなった。ミア=カンガルーは瀕死の状態で、ミアに言わせればもう救うことはできないし、楽にしてやることもできない。
右手は霊を受け取るためのアンテナであり、願えば、霊との交流が可能となる。だがその実質はトランスに陥るための装置で、表層意識に仕舞われている思考ないし欲望が表出させるもの――欲望を映し出す鏡――なのだ。例えば、憑依されたダニエルが激しい性的欲求を露わにするのは、ジェイドとの関係がプラトニックなものであることの裏返しである。精神的に追い込まれたミアは、現実とトランスとの境界が曖昧になり、自らの欲望を現実世界に映し出すようになってしまう。
2020年代の若者たちがSNSを通じて広める降霊会。科学の不可知の領域はいかにテクノロジーが進展しようとも存在するのであり、その領域に対する探求心は普遍的なものなのだろう。