展覧会『堀江栞「かさぶたは、時おり剥がれる」』を鑑賞しての備忘録
√K Contemporaryにて、2023年11月18日~12月23日(当初会期12月16日までを延長)。
水彩絵具で顔を表わした作品約110点が展示室内をぐるっと囲むように配された、堀江栞の個展。
「かさぶた」と題された堀江栞の描く顔を見た瞬間に連想されたのは、オディロン・ルドン(Odilon Redon)の「ゴヤ讃(Hommage à Goya)」シリーズの1点にある《沼の花、悲しげな人間の顔(La fleur de marécage, une tête humaine et triste)》である。夜、水面から茎をうねり伸ばす植物から花の代わりに人の顔が咲き、発光する。黒い画面の白い顔はやや見上げるような角度で描かれている。顔の周囲に放たれる光を表わす線は、漫画の集中線のような効果を上げ、植物から生える顔の違和感と相俟って忘れがたい印象を残す。作家の作品は白い画面にやや歪な楕の目・花・口の顔だけが描かれる。目を見開いているものがほとんどだが、視線を向ける先は様々だ。モノクロームに近い色彩のものも含まれるが、緑に青など主に寒色で描いたもの、青に赤など補色に近いとりあわせで描いたものなどが多い。それでも、水彩絵具の水を感じさせるイメージは、やはりルドンの沼を引き寄せる。おそらくモデルなしに紙に向かって筆を運ぶのに任せて描かれたであろう顔は、作家の内なる沼に咲く花であり、作家の自画像である。花が咲き散るのは、切り刻まれてできたかさぶたが剥がれ落ちるのに等しい。会場の壁をぐるりと一線に水面のように取り囲むことで、会場を沼と化していた。鑑賞者は作家の沼にはまり、ずぶずぶと沈んでいかざるをえない。