展覧会『阪本トクロウ「道草」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY MoMo 両国にて、2023年11月25日~12月23日。
雑草をモティーフにした絵画や身近な風景を描いた作品で構成される、阪本トクロウの個展。
横に長い画面に、淡い青を背景として立ち並ぶヒメジョオンを描いた《草木》(410mm×1168mm)など、ヒメジョオンを描いた作品4点では白い舌状花と黄の筒状花こそ表わされているが、イタドリ、シロザ、アキノノゲシなど雑草を描いた作品群6点はいずれも緑のシルエットとして表現されている。この点、ほとんど黒に見える暗い藍色に雑草を金色の輝きで表わした川端龍子の《草炎》と対照的である。
《lines―水面―》(1303mm×1303mm)は、水色の画面に7本の揺れる線を右上から左下へと斜めに平行に描き込むことで揺れにより水面を描き出した作品。福田平八郎の《漣》の系譜に連なる。心電図のような波線は、楽譜の五線譜を連想させもして、無機質な画面に生命を響かせるようだ。
《ドリフター》(1939mm×2606mm)は砂浜から岬を望む景観を描いた作品だが、水平線を低く設定し、画面上部5分の4ほどは空が茫漠と広がっている点が印象的である。バルビゾン派の地平線など19世紀西洋絵画の流れを汲んでいるようだ。地平線砂浜に残された轍や、看板は、砂浜が失われていく未来を暗示するようで、空の大きさと陸地の狭さははアネクメーネの増大を象徴するのかもしれない。思えばバルビゾン派も都市の環境の悪化により郊外に流れ着いたのであった。
《呼吸》(1940mm×1620mm)は、ショッピングモールの建物を駐車場越しに描いた作品。画面の最下段には車のルーフが僅かに覗かせるのは、人の姿をカットし、ショッピングモールの壁と底に設えられたチェーン店の看板に目を向けさせるためのようだ。画面の4分の3はペンキで塗ったようなべったりとした青空が占めている。それは、ショッピングモールとチェーン店により、世界が画一的なのっぺりとした平面と化している様を強調する。雑草を描いた「草木」シリーズと併せ見るとき、ショッピングモールやチェーン店が蔓延っているというテーマが浮上する。無論、雑草もショッピングモールも呼吸し、なおかつ人々の呼吸を可能にする役割を果しているのだ。
身近な風景への眼差しと、絵画に昇華する手練と。それを楚楚と提示する態度も好ましい。