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芸術鑑賞の備忘録

映画『枯れ葉』

映画『枯れ葉』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のフィンランド・ドイツ合作映画。
81分。
監督・脚本は、アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)。
撮影は、ティモ・サルミネン(Timo Salminen)。
美術は、ビレ・グロンルース(Ville Grönroos)。
衣装は、ティーナ・カウカネン(Tiina Kaukanen)。
編集は、サム・ヘイッキラ(Samu Heikkilä)。
原題は、"Kuolleet lehdet"。

 

ヘルシンキ。スーパーマーケット。赤いユニフォームの従業員がレジでの精算や商品の陳列に従事している。アンサ(Alma Pöysti)はチーズのコーナーに商品を並べ、ハンドラベラーで値札を付け、消費期限を見て棚から外す。警備員(Mikko Mykkänen)がやや離れた位置でアンサの様子を窺っている。
従業員のロッカールーム。赤いロッカーが並ぶ。アンサが私服に着替える。同僚のリーサ(Nuppu Koivu)がまた明日と先に出ていく。
トラムに揺られるアンサ。トラムを降り繁華街から薄暗い住宅地へ。帰宅すると鍵を置き、キッチンに明かりを点ける。バッグから食事を取り出すとレンジに入れる。窓際のテーブルに坐り、ラジオのスイッチを入れる。ロシアのウクライナ侵攻についてのニュースが流れる。食事は加熱し過ぎで食べられず、そのままごみ箱に捨てる。病院を標的にした爆撃があったとの報道に、アンサはラジオのダイヤルを廻して音楽に切り替える。腕時計を外し、歯磨きを始める。
線路際にあるスクラップ工場。防護服を身につけたホラッパ(Jussi Vatanen)がタイヤのホイールの高圧洗浄を終える。防護服を脱ぎ、禁煙のベンチでタバコを一服する。フォークリフトでホイールを運んで来たフォタリ(Janne Hyytiäinen)がホラッパの隣に腰を降ろす。命取りだ。肺の病気に殺されるなんて思わない。分かるのか。悪癖の1つや2つ誰にでもあるだろ、口を挟むな。お前の葬儀でスピーチをしてやるよ。
夜。スクラップ工場の従業員の暮らすトレーラーハウス。ラジオからロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れる。ホラッパは1人雑誌を読んでいる。同部屋のヒスパニックの2人がめかし込んで出て行った。フォタリが入れ違いに戻ってきてホラッパをカラオケに誘う。

 

ヘルシンキ。アンサ(Alma Pöysti)はスーパーマーケットの呼び出し労働者。商品の陳列・廃棄などの業務に当たっている。ラジオしかないアパルトマンの自室に廃棄食品を持ち帰りかつかつの生活を送っている。ホラッパ(Jussi Vatanen)はスクラップ工場のトレーラーハウスに住み込みで働く高圧洗浄作業員。隙があれば業務中でも酒瓶を取り出して飲んでしまう。金曜の夜、ホラッパは同僚のフォタリ(Janne Hyytiäinen)に誘われてカラオケに繰り出した。フォタリは皆の前で熱唱したことで、隣に坐る女性に話しかけられる。ホラッパはフォタリの隣に坐る赤い服の女性が気になり、タバコを吸いに席を外して彼女を眺めていた。アンサは同僚のリーサ(Nuppu Koivu)とともにカラオケに来た。リーサは歌い上げた男に話しかけた。アンサは彼の連れの男が気になる。連れの男は煙草を吸いながら明らかに視線を送ってきたが、アンサは何も言えず仕舞いだった。アンサは廃棄食品の持ち帰りを理由に突如スーパーマーケットを解雇されてしまう。ネットカフェで酒場の調理補助の仕事を見付けた。アンサが店に向かうと店主のラウニオ(Martti Suosalo)に面接も無くその場で仕事を始めるよう言い付けられた。ラウニオが裏稼業の隠れ蓑にしている店だった。帰宅しようとしたアンサはトラムの停留所でカラオケで気になった男が泥酔して眠るのを見付けた。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

ともに歳を重ね不安定な立場にある独り身のアンサとホラッパ。枯れ葉のような2人が邂逅した顚末を描く。
物語は淡々と乾いたタッチで描かれる。かといってハードボイルドではない。どこかおかしみがある。
夜ばかりが描かれてる訳ではないが、夜のイメージが色濃い。それは行き詰まった者たちの世界を象徴するとともに、彼ら/彼女らの世界と鑑賞者とを地続きにする。
アンサとホラッパが一緒に見に行った映画は『デッド・ドント・ダイ(The Dead Don't Die)』(2019)。アンサはいたくお気に入り。
Maustetytötの"Syntynyt suruun ja puettu pettymyksin"が沁みる。
Aki Kaurismäki監督作品なら、まずは『希望のかなた(Toivon tuolla puolen)』(2017)をお薦めしたい。