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芸術鑑賞の備忘録

映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』

映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』を鑑賞しての備忘録
2018年のアメリカ映画。監督・脚本はアビー・コーンとマーク・シルバースタイン。

 

メイクが好きなレネー・ベネット(エイミー・シューマー)は化粧品ブランドのリリー・ルクレア社に勤務する。もっともセカンドラインのオンライン部門の配属で、オフィスは本社から離れたチャイナタウンの雑居ビルの地下にある。そこにはレネーの他に無口な男性社員のメイソン(エイドリアン・マルティネス)しかいない。プライヴェートではジェーン(ビジー・フィリップス)とヴィヴィアン(エイディ・ブライアント)と3人でつるんで楽しい時を過ごしているが、メイクやファッションが映える美貌とスタイルとを手に入れることを夢見ている。一念発起して通い始めた評判のフィットネス・クラブで、自分の理想をパーフェクトに体現したマロリー(エミリー・タラコウスキー)と知り合う。マロリーに刺激を受けたレネーは、理想のルックスを手に入れることを神に願い、フィットネス・クラブに向かう。すると、バイクを必死にこぐあまり転倒したレネーは頭部を強打して失神してしまう。目覚めたレニーは憧れのスタイルと容貌とを手に入れていることに気がつく。願いが叶ったと喜ぶレネー。男たちはレネーのためにドアを開け、通り過ぎるレネーに口笛を吹く。空きがあったリリー・ルクレア社の受付係に応募すると採用が決まる。クリーニング店では順番を待つレネーにある男が番号を尋ねてくる。イーサン(ロニー・スコヴェル)というその男と電話番号を交換し、後日デートすることになる。

 

この作品のポイントは、外見上の変身譚ではないということ。頭を打って意識を取り戻したレネーは理想の姿を手に入れたと思っており、鏡に映る姿もレネーの目から見れば望み通りの姿になっているらしいが、実際には外見に一切変化が生じていないのだ。だから周囲の人たちは態度や行動が一変したレネーに戸惑うことになるし、その点がこの作品のコメディの中核となっている。だが、この作品が凄いのは、レネーが手に入れた自信によりレネーだけでなく周囲も変化していくということだ。象徴的なのがイーサンとの初デートで、レネーが飛び込みで参加したビキニ・コンテストのシーン。イーサンが必死に思いとどまらせようとするも結局制止を振り切って出場したレネーは、セクシーなビキニ女性たちの後に登場し、会場を白けさせてしまう。ところが、絶対的な自信を持つレネーがパフォーマンスを繰り出していくうちに会場は次第に盛り上がり、イーサンもレネーの美しさに魅力されていく。そして、ビキニコンテストの観客=イーサンの立場と、この映画の観客自身が重ね合わされていくというマジックが起こるのだ。エイミー・シューマーの演技力とキャラクターとが可能にしたのだろう。

 

リリー・ルクレア社の創業者の孫娘でCEOのエイヴリー・ルクレアを演じたミシェル・ウィリアムズ。声音を変えてコメディエンヌとしての魅力を発揮していた。『くるみ割り人形と秘密の王国』のキーラ・ナイトレイに匹敵する好演。