可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『マイ・ブックショップ』

映画『マイ・ブックショップ』を鑑賞しての備忘録
2017年制作のスペイン・ドイツ・イギリス合作映画。
監督・脚本はイザベル・コイシェ(Isabel Coixet)
原作はペネロピ・フィッツジェラルド(Penelope Fitzgerald)『ブックショップ(The Bookshop)』
英題は"The Bookshop"。

イギリスの小さな海岸沿いの町。16年前、戦争で夫を亡くしたフローレンス・グリーン(Emily Mortimer)は、本と夫との思い出を支えに暮らしてきた。かつてロンドンの書店でともに店員であった二人は、出会ってすぐに相思相愛となったのだった。フローレンスは長年空き家となっていた「オールド・ハウス」に、町に長い間存在しなかった書店を開くことにした。屋根や水道などを修理して入居すしたところで、フローレンスは地元の有力者ヴァイオレット・ガマート(Patricia Clarkson)からパーティーに招待される。予期せぬ誘いに慌てて洋服を新調して臨んだフローレンスに、ヴァイオレットは町の中心にある「オールド・ハウス」に芸術センターを設置する予定であると告げる。ヴァイオレットは立ち退きを求めるためにフローレンスをパーティーに招いたのだった。フローレンスには半年かけて選定した「オールド・ハウス」を譲るつもりは毛頭なかった。だが弁護士ソーントン(Jorge Suquet)は物件取得手続きをなかなか進めずに他の物件を推薦するなど、ヴァイオレットの妨害工作が次々と明らかになっていく。それでもフローレンスは「オールド・ハウス・ブックショップ」という名の書店を開店させる。店員は地理と算数は好きだが読書は嫌いだという少女クリスティーン(Honor Kneafsey)。開店早々、エドモンド・ブランディッシュ(Bill Nighy)から適当な本を見繕って送って欲しいという依頼を受ける。彼は、妻亡き後、地元の人々と一切交流をしない偏屈な老紳士として知られていた。フローレンスが送った3冊のうちレイ・ブラッドベリの『華氏451度』を気に入ったブランディッシュは、ブラッドベリの本を送るよう求めてくる。ブランディッシュとの交流が生まれたフローレンスは、話題になっているある本を書店で売り出すべきかどうかを相談することにする。その本とは、BBC職員のミロ・ノース(James Lance)に勧められて読み思わず夜を徹したウラジミール・ナボコフの『ロリータ』であった。

 

権力を握る人物が悪だったとして、その人物一人の力で物事は悪い方向へ進むのか。悪を実現・持続させているのは、権力者の周りにいて、自らの欲求の赴くまま物事を考えることなく楽な方へと流されてる人々によってである。本作のメッセージ(の一つ)は、ハンナ・アーレントが指摘する「悪の陳腐さ」である。

レイ・ブラッドベリの『華氏451度』が極めて重要な枠割りを担っている。