可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 水木塁個展『東下り』

展覧会『水木塁「東下り」』を鑑賞しての備忘録
WAITINGROOMにて、2019年5月11日~6月9日。

水木塁の作品展。

《宙返り鳩》のシリーズは、シューズの空き箱をたたみ、その表面にコンパスで円を描いていった作品。コンパスの針を刺した場所にはクリスタル・ガラスが貼り付けられている。パッケージ(作品を保護・収納するもの)を作品自体へと反転させている。また、『伊勢物語』の「東下り」をモチーフとした光琳の《八橋蒔絵螺鈿硯箱》と、「繰り返されるイメージ」(円、燕子花)や、「画面への貼り付け」(クリスタル・ガラス、鉛板)を行った「箱」であるという点で共通する。

《C/A/R》は、積み重ねられた廃車と「車」という文字とを撮影した写真をカーヴした画面に転写した対の作品。廃車も「車」という文字もいずれも車の移動という機能を喪失したものであり、「移動」から「不動」への反転と言える。「東下り」の男も、馬や舟で移動するが、それは「住むべき国」(未来)を求めてのことであり、心を占めているのは常に都にいる「思ふ人」(過去)である。移動する身体と不動を希求するの思考との対比となっている。

《Shigam》は、道路用塗料を用い、ガムやタバコの箱が貼り付けられた複数のパネルを貼り合わせた絵画。地面を壁面へと転倒している。「東下り」はある男の「道行き」である。

作家はスケートボーダーであるという。スケートボーディングは、移動手段としての通過点から娯楽の空間としての目的地へと道を反転させる。そのような性格が作品に反映されているようだ。