映画『COLD WAR あの歌、2つの心』を鑑賞しての備忘録
2018年のポーランド・イギリス・フランス合作映画。
監督は、パベウ・パブリコフスキ(Paweł Pawlikowski)。
脚本は、パベウ・パブリコフスキ(Paweł Pawlikowski)、ヤヌシュ・グロワツキ(Janusz Głowacki)、ピヨトル・バルコフスキ(Piotr Borkowski)。
原題は、"Zimna wojna"。
第二次世界大戦終結後のポーランド。地方政府の幹部カチマレク(Borys Szyc)は、民族の伝統音楽・舞踊の公演活動を行うための養成所を地元に建設することにする。音楽担当のヴィクトル(Tomasz Kot) と舞踊担当のイレーナ(Agata Kulesza)は農村を巡り、演奏の録音や聞き取りといった調査を実施するとともに、オーディション参加者を募った。養成所で行われたオーディションでヴィクトルの心を掴んだのはズーラ(Joanna Kulig)という少女だった。奔放な振る舞いで養成所の中でも目立つ存在のズーラだったが、彼女には性的虐待から逃れるため父親を手にかけた廉で保護観察を受けているという事情があった。ヴィクトルとズーラとはやがて男女の関係となるが、ズーラにはヴィクトルの行動を報告するようカチマレクから求められていた。公演を鑑賞した大臣(Adam Ferency)は、カチマレクの音楽・舞踊団を政治宣伝に有用だと悟り、共産主義やスターリンを讃える歌をレパートリーに加えるよう要求する。カチマレクが要求を受け容れたため、方針に反対したイレーナは音楽・舞踊団を去ってしまう。ヴィクトルも共産党支配の息苦しい環境に耐えられず、音楽・舞踊団のベルリン公演の際、ズーラに西側へ亡命することを持ちかける。だが、待ち合わせ場所にズーラは現れず、ヴィクトルは一人祖国を捨て、フランスでジャズ・ピアニストとしての生活を始めるのだった。
ヴィクトルとズーラとの分かち難い結びつきをモノクロームの映像で描き出す。
冒頭の、ドームが落ちた村の教会堂の廃墟から円形に切り取られた冬空を映し出すシーン。戦争の結果生まれた空虚の象徴だろう。その空虚を埋めるものをひたすら描いた作品とも言えるのではないか。「円環」は、再び巡り来ることを予告する。ヴィクトルがピアニストとして在籍したパリのジャズ・クラブの名は「レクリプス(L'éclipse)」。欠けた円環である。
ラストシーンの、バス停のベンチの後ろの草叢に吹き寄せる一陣の風に、神々しさを感じずにいられない。最後の最後まで美しく、余韻が残る作品。