可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『アダムズ・アップル』

映画『アダムズ・アップル』を鑑賞しての備忘録
2005年のデンマーク・ドイツ合作映画。
監督・脚本は、アナス・トーマス・イェンセン(Anders Thomas Jensen)。
原題は、"Adams æbler"。

農園の中にある停留所で一人バスを降りたアダム(Ulrich Thomsen)。そこへ牧師のイヴァン(Mads Mikkelsen)が車で迎えに来る。イヴァンの挨拶にアダムは無言で、荷物を持とうというイヴァンにバッグを触らせない。刑務所で身につく習性だと笑ってすませるイヴァンは、アダムを車に乗せて教会へと向かう。白亜の教会の前にはリンゴの木があり、鈴生りになっている。イヴァンはまだ青くて食べられないが今年は豊作だという。二人が礼拝堂に入ると、グナー(Nicolas Bro)とカリド(Ali Kazim)が信徒席から聖書を回収しているところで、アダムを見るなりカリドが悪態をつく。イヴァンはアダムに相手にしように告げ、事務室へ向かう。向かい合って座ったイヴァンがアダムに語りかける。刑務所からの報告書にはネオナチの悪党と書かれているが、生まれもっての悪党などいない。グナ―はデンマークを代表するテニスプレーヤーだったが誤審での敗戦をきっかけに酒に溺れ、窃盗や性犯罪を繰り返したが、今は立ち直っている。カリドも「スタトイル」(ガソリンスタンド)を狙った強盗から足を洗ってグナーとともに私の助手をしている。保護観察期間に自分で何か目標を決めて取り組んで欲しいと。アダムは教会でやりたいことなどないと断るが、再度イヴァンに迫られ、口から出任せにケーキを焼こうと告げる。そこでイヴァンはリンゴを収穫してアップルケーキを作ることをアダムの目標とする。鐘楼に近い部屋を割り当てられたアダムは壁に掛けられた十字架を外してヒトラーの肖像を掲げる。翌朝、アダムは、ヒトラー肖像画が壁から、イヴァンが届けた聖書が棚から落ちるほどの鐘の音で目を覚ます。リンゴの木に無数のカラスが群がり実を食い散らかしているのを見たイヴァンは、アダムに悪魔が与えた試練だと諭す。

 

主にアダムの視点で描かれる。口数が少なく無表情なアダムは更正していないギャングであるため感情移入しづらい。それでも周囲の人物、とりわけイヴァンの異常さが明らかになるにつれ、次第にアダムに肩入れしたくなる。すると、アダムの凶暴性が発揮され、再び突き放される。
随所に埋め込まれた暴力性や残虐性が、その思い切りの良さでうまくブラックな笑いへと転換し、結果、作品がファンタジーとして立ち現れる。
旧約聖書』の「ヨブ記」がモティーフとなっている。
2005年の作品をよく掘り起こしてくれた。