可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

舞台 チーム夜営『タイトルはご自由に。リバース』

チーム夜営vol.6.5『タイトルはご自由に。リバース』を鑑賞しての備忘録
BUCKLE KÔBÔにて、2019年10月25日~27日。

アラームが何度か鳴る。眠る女性(高澤聡美)に起きるよう声(馬場太史)がかけられる。「0101」と呼びかけられる女性が目を覚ましたのは見知らぬ部屋の中。声は人工知能のもので、「0101」の問いかけに一つ一つ状況を説明していく。地球から星間調査のため、2000人の人間の脳とともに打ち上げられた宇宙船に搭乗していること。「0101」が101番目の任務担当者であること。「0101」が日本の女性であるため、人工知能は日本の男性に自動的に決定されていること。「0101」の脳から割り出した情報で室内を設定していること。一人100年の任期中、毎日午前0時から午後10時まで調査を行い、午後10時から午前0時までが睡眠に充てられていること。調査は、宇宙空間での人間の状況を把握するために行われているため、必ず人間の感覚で行う必要がある(人工知能が代替できない)こと。毎日報告書を作成して送信しなければならない(これも人工知能が代替できない)こと。任期中は映画を見たりゲームをしたりして持て余す時間を過ごすこと。人によっては小説の執筆のような創作活動に従事する者もいること。地球の映像を要求した前任者が発狂した先例があるため、地球の映像は任務最終日まで閲覧できないこと。などなど。「0101」が宇宙船の形態を訪ねると、人間の脳がトウモロコシの粒のように設置されたトウモロコシの外形をしていることを知る。ペットを飼うことを提案し、人工知能が薦める絶滅種の犬に「ダーヴィン」と名付ける。人工知能に人間の姿で現れるよう頼み、適度な距離感の友人として話しかけさせる。突然、緊急事態を知らせる警報が鳴り、破損した先発の宇宙船を目撃する。搭載された脳はポップコーンのように弾け飛び、人工知能の調査で救出可能な脳や情報がないことが明らかになる。初日の任務の最後に、「0101」は長い任期の暇つぶしとして、人工知能の名前を当てるゲームを始める。1日1回としても約36500回ものチャンスがある。いつか名前を当てられるだろうと。

 

脳機能の停止(脳死)が死とみなされる社会とは、脳のみが人間と考える社会だ。それを揶揄するかのように、本作の宇宙船の「乗組員」は脳である。全ては脳内の電気信号へと還元された脳化社会のなれの果てを描いている。だがトウモロコシの宇宙船に象徴されるユーモアの感覚がデストピアの陰鬱さを後景に追いやる。終幕までほぼ出ずっぱりで観客を魅了する高澤聡美と、人工知能と人間とを声で巧妙に演じ分ける馬場太史の好演もあり、鑑賞後はある種の爽やかささえ感じる。
「タイトルはご自由に。」という題名から明らかなように、「名付け」の物語である。「0101」は人間の脳であるが、被験者より検体に近い存在だ。絶滅した動物種にさえ(種名とは言え)名前があるのに、人間(脳)は番号で呼ばれるのだ。人間が開発した人工知能が人間(脳)を管理し、進化の果てには人工知能の君臨がある。全ては人工知能の管理下に置かれる。人間が人工知能に対して「名付け」を行うことで、人間は主体としての地位を辛うじて回復する。
映画・本・ゲーム、いずれにせよその世界に没入するとき、周囲の環境は消え去る。翻って、それらへの没入は、宇宙空間にいるのと変わらないことにもなる。
廃墟的な雰囲気のBUCKLE KÔBÔ、それが位置する人工島である京浜島。
さらに近くの羽田を飛び立つ飛行機の轟音が相俟って、宇宙空間のデストピアを再現するのに相応しい会場だった。