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芸術鑑賞の備忘録

映画『ぶあいそうな手紙』

映画『ぶあいそうな手紙』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のブラジル映画。123分。
監督は、アナ・ルイーザ・アゼベード(Ana Luiza Azevedo)。
脚本は、アナ・ルイーザ・アゼベード(Ana Luiza Azevedo)とジョルジ・フルタード(Jorge Furtado)。
撮影は、グラウコ・フィルポ(Glauco Firpo)。
編集は、ジバ・アシス・ブラジル(Giba Assis Brasil)。
原題は、"Aos olhos de Ernesto"。

 

ポルト・アレグレの住宅街にあるアパルトマンの一室。ラミロ(Júlio Andrade)が内見に訪れたカップルに部屋を紹介して回っている。父エルネスト(Jorge Bolani)が40年以上にわたって住んでおり、かつては自らも暮らしていたため、勝手はよく分かっている。最近頓に耄碌した父に一人暮らしは難しいと判断し、部屋を売り払って父をサンパウロの自宅に迎えるつもりだった。だがエルネストは自らの書斎を公開することを頑なに拒み、その雰囲気にカップルも怖ず怖ずと退散するほかない。エルネストはチェス盤を囲みながら話をしようと息子に声をかけるが、ラミロは車を呼んであると辞去する。エルネストは視力を悪くしているものの、息子の厄介になるつもりはなかった。翌朝、扉を開けるといつものごとく新聞がなくなっている。隣のドアをノックすると、ハビエル(Jorge D'Elía)が姿を現す。どうせ読めやしないだろう。ハビエルは新聞と、差出人に「ルシーア」とある手紙をエルネストに手渡す。読んでやろうというハビエルの申し出を断り、自ら拡大鏡を使って手紙を読もうとするが、うまくいかない。連邦貯蓄銀行に出かけ、窓口のいつもの担当者(Celina Alcântara)に年金の受け取りとともに公共料金などの支払いを任せる。手元に残るわずかな金額に、これじゃ生活できないな、と愚痴をこぼす。部屋に戻ると、週に一度清掃を任せているクリスティーナ(Áurea Baptista)が作業している。仕事終わりに手紙を読んでもらうことにするが、彼女に筆記体スペイン語は難しく、エルネストの友人でもあるルシーア(Gloria Demassi)の夫が亡くなったことだけを辛うじて知る。翌日、やむを得ずハビエルを招いて手紙を読むよう頼むが、友人の死はルシーアを手に入れるチャンスだとおちゃらけるハビエルに立腹し、追い払ってしまう。昼、買い出しから帰ったエルネストは、アパルトマンの入口で、犬に提げて帰った夕食を盗られてしまう。犬を散歩させようとしていたパンクな出で立ちの若い女性(Gabriela Poester)が手綱を放してしまったのだ。彼女は慌てて拾い上げてエルネストに届けるが、犬の食べたものなど食べられないと捨てるよう指示する。彼女はビアと言い、アパルトマンに住む女性(Janaina Kremer)の姪で犬の散歩を請け負っていた。ビアは罪滅ぼしにと台所を片付けようとするが、家事はクリスティーナにお願いしてあるからと断る。その代わり、ルシーアからの手紙を読んでもらうことにする。あれこれと質問を差し挟み脱線するものの、なんとか手紙を読み上げるビア。ビアは手紙に籠められたエルネストへの愛情を指摘する。

 

一人暮らしのエルネスト(Jorge Bolani)は視力の衰えなどで将来に不安を抱えていたが、学生時代からの「友人」ルシーアからの手紙、そして若い女性ビア(Gabriela Poester)の存在によって気力を取り戻していく。目を悪くしながらも知力は微塵も衰えていないエルネストと人当たりは悪くないがどこかつかみどころのない猫のようなビア(Gabriela Poester)との関係は一筋縄ではいかないところがあり、穏やかな中にスリリングさも感じさせるよく練られたプロット。素敵なラストシーンまでテンポ良く楽しめる。上さんの愚痴を言いながらしょっちゅう顔を出す隣人のハビエル(Jorge D'Elía)、ビアに対して警戒心を剥き出しにする家政婦のクリスティーナ(Áurea Baptista)らの脇を固める俳優も良い。
劇中ではよくレコードがかかるが、いずれも素晴らしい楽曲。
ルシーア(Lucía)の名は「光」に由来し、独居老人の暗い部屋に差す光であることが明白な演出もある。なお、ビアことベアトリス(Beatriz)の名には「幸福」が潜んでいる。