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芸術鑑賞の備忘録

映画『ノッティングヒルの洋菓子店』

映画『ノッティングヒルの洋菓子店』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のイギリス映画。98分。
監督は、エリザ・シュローダー(Eliza Schroeder)。
原案は、エリザ・シュローダー(Eliza Schroeder)、マハリア・リマー(Mahalia Rimmer)、ジェイク・ブランガー(Jake Brunger)。
脚本は、ジェイク・ブランガー(Jake Brunger)。
撮影は、アーロン・リード(Aaron Reid)。
編集は、ローラ・モロッド(Laura Morrod)とジム・ハンプトン)Jim Hampton)。
原題は、"Love Sarah"。

 

ロンドン。サラ(Candice Brown)が通りを自転車で疾走している。軋む自転車。ゴルボーン・ロードにある店舗予定地の前では、サラを待つイザベラ(Shelley Conn)が、サラに電話をかける。予定の時間を遅れてもサラが姿を見せないのだ。移動中のためか、サラの電話はすぐに自動応答のメッセージに切り替わる。イザベラはとりあえずメッセージを吹き込む。サラの娘クラリッサ(Shannon Tarbet)は、ダンススタジオでバレエの練習中。サラの母ミミ(Celia Imrie)は自宅で机に向かいサラに手紙を認めていた。ミミは呼び鈴を聞いて玄関へ向かう。二人の警官が立っていた。
イザベラが不動産会社のオフィスで頭を抱えている。担当者(Andrew David)は契約書を示してイザベラが共同経営者だからと繰り返すばかり。イザベラは姉妹のように育った幼馴染みのサラとともにベーカリーを開こうと、ゴルボーン・ロードの空き店舗を手に入れる契約を結んでいた。かつて二人はパリにある洋菓子学校に通った。サラが腕を上げパティシエの道を順調に歩む一方、イザベラは中途で断念した。それでも、二人の睦まじい関係は変わらなかった。サラが存分に腕を振るうことのできる店を、イザベラは財務担当者として支えるつもりだった。ところがこれからというときに、サラは交通事故によって突然帰らぬ人となってしまったのだ。大切な友人が亡くなってしまったんです。しかも開業資金に全てを注ぎ込んでしまった私には何も無いんです。ご友人がお亡くなりになったことについてはお察ししますが、契約は契約ですから。動物がいない動物園なんてオープンできないでしょう? パティシエがいないベーカリーなんてありえない! 他の借り手を見つける他に方法はありません。長く空き店舗になっていましたから、なかなか難しいかもしれませんが…。ミミは自宅の洗面台で鏡に顔を映している。イヤリングを外そうとして排水口に落としてしまう。留守番電話には友人のオルガ(Lucy Fleming)から前みたいにお茶でもしようとメッセージが入っていたが、ミミはとてもそんな気にはなれない。家に籠もった生活で気を紛らわせるのは空中ブランコ乗りとして活躍した往年の思い出に耽ることくらい。ダンススタジオでのレッスン。クラリッサが遅れて参加する。だが、クラリッサはぼうっとしてしまって周りの動きに合わせることができず、スタジオを飛び出してしまう。クラリッサのいる寝室にアレックス(Max Parker)が帰ってくる。俺はお前の寝室代わりか。最近ちっとも楽しくないな。別れたいのね。クラリッサは荷物をまとめてアレックスの部屋を後にする。クラリッサは、夜の町を一人歩いてゴルボーン・ロードを目指す。母の店となる予定だった空き店舗のシャッターを開け、ドアをこじ開けると、寝袋に入って眠りに就く。朝、店の入口でイザベラが警官を相手に押し問答となっている。姪です。いいえ、友人の娘です。とにかく心配には及びませんので、お引き取りください。イザベラは警官を追い返すと、クラリッサに起きるよう促す。イザベラは自宅に招こうとするが、クラリッサは断る。クラリッサはイザベラに車で祖母の家に送ってもらう。ミミはクラリッサの突然の来訪に驚くが、リヴィングに通すと、紅茶を勧める。ミルクは? 豆乳はある? 呆気にとられる祖母。…ミルクで。紅茶を口にするクラリッサにミミが尋ねる。いくら必要なの? どうしてそう思うの? 音信不通の孫娘が突然訪れるとしたら無心以外に用があって? 居場所がなくなっちゃった。それなら話は別ね。クラリッサは沢山の荷物を持ってミミの家にやって来る。近所迷惑になるほど大きな音量で音楽を流すなど自分のスタイルを貫き、居候でも借りてきた猫になる気配は微塵もない。クラリッサは、再就職先で打ち合わせをしているイザベラの許を訪ねる。ジェスチャーで出てくるように訴えるがイザベラが応じないと見るや扉を開け、ちょっとだけ話があると強引にイザベラを呼び寄せる。二人でママのやろうとしていた店をやろうよ。この年で再就職は大変だったのよ。それに店には借り手が付くの。クラリッサは意に介さない。二人で店舗予定地に向かうことにする。

 

急死したパティシエ(Candice Brown)の母(Celia Imrie)、娘(Shannon Tarbet)、友人(Shelley Conn)、元恋人(Rupert Penry-Jones)らが織りなす「喪失」後の日々。
サラが幼い頃に愛読したジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の『八十日間世界一周(英題:Around the World in eighty Days)』とミミの友人フェリックス(Bill Paterson)の現代は世界の方がやって来るという言葉に誘われて、"Around the World in eighty cakes"のアイデアが生まれる。ミミがかつて活躍した空中ブランコ(Trapèze volant)はフランス人のJules Léotardの発明であり、サラは幼い頃にヴェルヌの作品を愛読するとともに長じてはパリのパティシエの学校に通った。クラリッサが熱中するバレエもフランス(パリ)をその発展に寄与してきた重要な地であり、3世代全てがフランスの文化に馴染みがある点で共通していると言える。