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芸術鑑賞の備忘録

映画『MISS ミス・フランスになりたい!』

映画『MISS ミス・フランスになりたい!』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のフランス映画。107分。
監督・原案は、ルーベン・アウベス(Ruben Alves)。
脚本は、エロディ・ナメ(Élodie Namer)とルーベン・アウベス(Ruben Alves)。
撮影は、ルノー・シャッサン(Renaud Chassaing)。
編集は、バレリー・ドゥセーヌ(Valérie Deseine)。
原題は、"Miss"。

 

2004年。フランスの小学校の教室。生徒たちが一人ずつ黒板の前に立って将来の夢を語っている。玩具の修理屋、サッカー選手、大統領。アレックス(Evan Esquerra)が「僕の夢はミス・フランス」と言うと、教室が笑いに包まれる。男がなれるわけないじゃん!
2019年。ヨランド(Isabelle Nanty)の家。月初めの朝、ヨランドが下宿人の部屋を回り、家賃を取り立てる。まずはパドメ(Rosemine Safy-Borget)たちの部屋へ。縫製工場のような部屋では既にミシンが稼働している。ハドメからパディーニ(Ruchi Ranjan)の部屋が必要だと訴えられるが、空きがないと断る。続いてランディ(Moussa Mansaly)とアメド(Hedi Bouchenafa)の部屋へ。「観葉植物」のある小さな部屋に入ると、葉っぱの香りが漂ってくる。アメドはアイマスクをしてベッドに横たわっている。支払えないことが分かるとヨランドはスマートフォンを取り上げる。続いて階上のローラ(Thibault de Montalembert)の部屋へ。ローラがすぐさま家賃を差しだすが、紙幣にはカナダドルが混じっていた。客がインターナショナルなのよ。最後にアレックス(Alexandre Wetter)の部屋へ。アレックスは家賃を払うことができない。
アレックスがバスに乗ると、前の座席の聾唖の少女から見つめられる。アレックスはパーカーを着てフードを被っていた。勤め先のボクシング・クラブへ向かう。クラブに参加する子供たちからは「姫」と揶揄され、言うことを聞いてもらえない。リングに会長(Patrice Melennec)が上がり、子供たちを前に、ボクシングのチャンピオンを紹介する。紹介されたのはエリアス(Quentin Faure)。アレックスの幼馴染みだった。子供たちがエリアスに質問をするのを後ろで見ていたアレックスに、エリアスが気が付く。クラブの外でアレックスとエリアスとが旧交を温めている。ご両親の墓参りには行けていないな。行ってないのは同じだよ。君だけでも夢を叶えてくれて良かった。会長に呼ばれ、アレックスは仕事に戻る。夜、アレックスがディスコで一人踊っていると、後ろから男性が近づき、声をかける。だがアレックスが男だと気が付くと立ち去る。アレックスがバーに向かうと、一人で飲んでいた女性から美しいと声をかけられる。
アレックスは、下宿人が集まって食事をしている場で、突然、「ミス・フランス」になることを宣言する。

 

交通事故で両親を失って以来、自分を見失っていたアレックス(Alexandre Wetter)が、幼馴染みで夢を実現したエリアス(Quentin Faure)との再会をきっかけに、子供の頃の夢だった「ミス・フランス」に挑戦する。
男性のアレックスが女性のアレクサンドラとして「ミス・フランス」コンテストに出場するという荒唐無稽とも言えるストーリーを、Alexandre Wetterが女性らしさを発揮することでリアリティを高めた。
アレックスの心情の変化に唐突な点は否めないが、酸いも甘いも噛み分けた男娼のローラ(Thibault de Montalembert)、刺々しさの中に愛情を隠し持つヨランド(Isabelle Nanty)、「ミス・フランス」を理想的なものにしようと奮闘するアマンダ(Pascale Arbillot)らのキャラクターの存在が、その違和を払拭する魅力を放っている。とりわけローラの奔放さと悲哀とを表現したThibault de Montalembertが印象に残る。