可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 平子雄一個展『GIFT』

展覧会『平子雄一個展「GIFT」』を鑑賞しての備忘録
KOTARO NUKAGAにて、2021年1月23日~4月3日。※当初会期(2月27日まで)を延長。

平子雄一の個展。作者の作品を特徴づける、針葉樹の樹冠(群葉?)の頭部を持つキャラクターが描き込まれた絵画を中心とした個展。

《Gift 02》は、200号(2590mm×1940mm)を横に3枚続きにした作品。中央の画面には、本を積み重ねた上に、針葉樹の樹冠の頭部を持つキャラクター(胸に"GOOD NIGHT"の文字の白いロングTシャツにデニムのパンツ、白いスニーカー)が、白い猫とともに座っている。壺に活けられたり鉢に飢えられた植物、みかんやパイナップルなどの果物、ギターやラジカセ、テーブルランプなどが本の山に紛れ込む。背景には星空が広がり、右の本の塔の上には「空飛ぶ円盤」らしきものが載る。左右の画面は対になっていて、両者ともに、三岸好太郎の絵画を思わせるような多数の蝶がモノクロームで描かれた巨大な白い壺がテーブルに鎮座し、様々な花が活けられている。背後の壁を額装された絵画を埋め尽くすのも同様である。数々の画中画は「平行宇宙」を表すだけでなく、入れ籠の関係を示唆し、壺のモティーフに「壺中の天」を読み取らせる。星空が三幅対の中心に配されているのは、夜空に点在する星々(の見かけ上の位置)を様々なイメージに仮託した星座(constellation)のように、色とりどりの背表紙の山、壺に活けられた花々、壺に表された蝶、靴やカトラリーをモティーフとした額絵という卑近なものの雑多な集まり(constellation)にも意味を読み取らせたいとの意図があるのだろう。右の画面の壁面に掲げられた青いイチゴを食べようとしているヘビの絵や、左画面の壁に掛けられたヘビのようにくねったフォークに刺さった赤い実からは、花が咲き乱れ果樹が散在する楽園における誘惑者としてのヘビや知恵の実が連想される。作品の題名であり展覧会のタイトルにも冠されている"Gift"には、「贈り物・才能」(英語)だけでなく、「毒」(ドイツ語)が重ねられているのかもしれない。

《Gift 03》は、歌川広重《名所江戸百景 亀戸梅屋舗》で画面を大胆に横切る臥龍梅のように、左手中央から右上へと伸びる木の幹が画面を分割している。左上には満月の夜を背景に、坂道となっている幹に複数の白い壺と、それに挿した花のように、火花の散る手持ち花火が入れられている。ところどころにミカンも置かれ、その間を赤や青の車が走っている。右下は明るい室内。上を走る木の幹には電飾が巻き付いている。床の中央の脚立の上には針葉樹の樹冠の頭部を持つキャラクターが腰掛けている。壁には額絵や自転車が掛けられ、棚には本や壺などが置かれている。スイカの絵画はボデゴンを、頭蓋骨のオブジェはピーテル・クラースなどのヴァニタスを思わせる。部屋の左の隅には角材のようなものが多数立てかけられており、エスキースのような紙がいくつも貼られている。その向こうには豊饒な花畑が広がっており、そこから汲み出された数々のアイデアが次々と作品へと転化される過程を描いているようだ。角材の1つが左上の月夜の世界へと連絡する。花火は作品誕生の比喩であった。自動車は作品を幹に沿って運搬し、(自転車=車輪が移動先を接続する)部屋の壁に展示される。右上の小さく確保された木立は、辿り着けない理想郷を表すのかも知れない。

《Gift 02》で本の上に腰掛けている様子や、《Gift 03》の樹上を走る赤い車と《Nonchooser 09》に描かれた赤い車に乗って疾走する様子を重ね合わせると、針葉樹の樹冠の頭部を持つキャラクターは、小さな存在に見える。作者の作品に頻繁に登場するそのキャラクターは、映画『マーウェン』(2018)が描くような、ミニチュアの世界に生きるための作者の分身だ。鑑賞者も、針葉樹の樹冠の頭部を持つキャラクター(作者)と一緒になって、絵画の中に入り込む。ところが、これらの作品が展示されている空間には、ほっそりとした小さなキャラクターのイメージを覆す、像高が2.7mもある針葉樹の樹冠の頭部を持つキャラクターの像が設置されている。《Yggdrasill 02》と題されており、どっしりとした体格をしているのは「世界樹(宇宙樹)」を表現するためであるらしい(自粛太りかもしれないが)。この「世界樹」は作者の作品群(世界)全てを包含する存在なのだ。なぜなら「世界樹」は作者そのものだからだ。ここに、鑑賞者を巻き込む入れ籠の状況が生み出され、来場者はますます作品世界に没入して遊ぶことになるのである。