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芸術鑑賞の備忘録

映画『あのこは貴族』

映画『あのこは貴族』を鑑賞しての備忘録
2021年製作の日本映画。124分。
監督・脚本は、岨手由貴子。
原作は、山内マリコの小説『あのこは貴族』。
撮影は、佐々木靖之。
編集は、堀善介。

 

2016年元旦の東京。日が暮れて、照明によって高層ビルの姿がシャープに浮かんでいる。車の少ない東京駅周辺の道を走るタクシー。後部座席に座る榛原華子(門脇麦)のスマートフォンが鳴る。祖母(冨田恵子)を囲んで行われるお年始の食事会がもう始まっている時間だった。田舎者がみんな地元に帰って東京は空いてるよね。ま、私も地方から出て来たんだけど。運転手が語るのを華子は黙って聞いている。お客さんは間違いなく東京の人だね。タクシーは、日比谷にある高級ホテルの車寄せへ滑り込む。お客さん乗せてくけど中入ったことないなあ。制服に身を固めたドアマンに迎えられて華子はホテルに入っていく。日本料理店の個室では、華子の家族がテーブルを囲んでいた。正月でも着物をお召しになった方を見かけなくなったわね。祖母(冨田恵子)が感慨深げにこぼす。毛皮も見なくなったわと着物を着た母・京子(銀粉蝶)が受ける。すかさず、華子のすぐ上の姉で皮膚科医の麻友子(篠原ゆき子)が毛皮なんて着てたら炎上ものよと指摘する。父・宗郎(佐戸井けん太)、長姉の香津子(石橋けい)と夫の岡上真(山中崇)、息子の晃太(南出凌嘉)とテーブルを囲み、お節料理に舌鼓を打っている。正面奥に座る祖母の脇、両親の前の2席が空いたままだ。係に案内された華子が部屋に入ってくる。麻友子らが華子に続いて入ってくる者は誰かと気にしているが、誰も入ってくる気配がない。華子は交際相手を元旦の食事会で紹介するつもりだったが、当日になって彼に振られてしまったのだ。母はそういうことならと、以前父がお見合いをさせようとしていた整形外科医の話を華子に持ちかける。以前から父の整形外科病院を華子の夫となる人に継いでもらいたがっていたのだ。麻友子はお見合いじゃなければ相手が見つからない医師なんて難有りに決まってると噛み付く。華子が普通の人がいいと言うと、香津子は普通が一番難しいと言う。岡上は華子の気持がち大事でしょうと場を収めようとする。華子は友人が次々と結婚していく中、ふられたショックもあり、母の提案をあっさりと受け容れる。父も満足そうだ。一家はそのまま写真館へ向かい、記念撮影する。引き続き、華子の見合い写真が撮影される。
白金にあるホテルのラウンジで華子が同級生たちと歓談している。皆、初等科からの長い付き合いだ。元旦に華子を振った彼氏のSNSの写真で盛り上がっていると、ドイツに渡ったヴァイオリニストの相楽逸子(石橋静河)も合流する。グループの中で結婚していないのは華子と逸子だけになった。帰り道、逸子は華子に慌てる必要はないんじゃないかと語りかける。
目白台にあるホテルで、華子は父から紹介された整形外科医と見合いをすることになった。風采が上がらない点は置くとしても、フィットしていないスーツや、落ち着きの無さが最初から気に入らなかった。そして、庭園を散策している最中、彼がスマートフォンで矢鱈に写真を撮り始めると、華子はこれ以上耐えることができなくなった。
華子が行きつけのネイルサロンでネイリストと盛り上がっている。出会い系ですか? もっと健全よ。部屋を探すのに空き室を探しながら街を歩いたりする? 不動産屋に行くでしょう。結婚相手を探すのも同じじゃない? 彼女の言葉にやけに感心した華子は、男性を紹介してもらうことになった。彼女が紹介してくれたのは、関西弁でまくし立てるようにしゃべる男性だった。狭い店内に人がごった返す大衆居酒屋の雰囲気にも耐えられず、服が汚れて借りようとした洗面所がひどく汚れていたのを見て、一目散に逃げだしてしまった。
結婚相手を探すのに必死な華子に、岡上が知人の弁護士を紹介してくれることになった。めかし込まず出かけようとする華子に香津子が見合い慣れした感じを出すのはどうかと苦言を呈するが、構わず待ち合わせのレストランに向かった。雨の降る夜。タクシーが向かったのは、古い洋館をリノベーションした店だった。入り口ではちょうど洒落たカップルが店を出て行くところだった。係に案内されてテーブルへ向かうと、スーツをタイトに着こなした青木幸一郎(高良健吾)の姿があった。華子にとって彼は理想的なルックスの持ち主だった。

 

東京でハイソな暮らしを送っている榛原華子(門脇麦)と、富山から上京して必死に生活している時岡美紀(水原希子)。それぞれの生活と、あるきっかけによる邂逅とを描く。
ともに東京という空間にいながら、華子と美紀とは「ねじれの位置」にある。それぞれの平面をロケーションで示していく。とりわけ、東京を象徴するものとして、東京駅が冒頭と結末とで呈示されている。また、華子がタクシーで移動するのに対し、美紀が自転車を漕いで移動することとの対比も鮮やか。とりわけ、美紀と平田里英(山下リオ)との「ニケツ」が、華子が徒歩で帰宅する途中、橋上で出会う(道路の向かい側の)二人組の女性と重ね合わせる演出が良い。
門脇麦が深窓の令嬢を、水原希子が上京して奮闘する女性を演じて説得力がある。
相楽逸子(石橋静河)による女性を分断させる言説の指摘や、美紀と同郷の平田里英(山下リオ)が発する収奪されて「東京の養分」となっているという台詞が印象に残る。
ある私立大学の内部・外部という設定は、映画『愚行録』(2017)と重なる要素となっている。