可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 東山詩織個展『盾、葉』

展覧会『東山詩織個展「盾、葉」』を鑑賞しての備忘録
Token Art Centerにて、2022年10月15日~11月13日。

テントの三角形(三角柱)や樹冠の楕円(円)など幾何学的なモティーフが繰り返し登場する画面に髪の長い人物が点在する絵画を描く、東山詩織の個展。21点を展観。

《Boundary line》(1300mm×1620mm)には、四角形の1つを底にした三角柱状のテントや、樹冠を表す円、筆記体のeないしlなどの連なりが、縦・横・斜めに分割された部分に繰り返し表される。画面左側に描かれた(花は付いていないものの)大きな葉と茎を伸ばすチューリップのような植物と、画面右側の「テント」と比例関係にありつつはるかに壮大で神殿の趣のある青い三角柱の構造物が目を引く。色取り取りのタイルを並べたモザイクのような部分、細かな葉を伸ばす茎の並び、柵のような斜め格子などもモティーフとして印象的である。髪の長い裸の人物(女性?)がテントやそこかしこで寛いでいたり、歩いていたりする。画面下部には8人で1つの網を広げる(しまう?)場面も描かれている。自然の中で衣服を身につけずテント生活を送る人々にはヒッピーに共通するものがある。テントや刈り込まれたような植物の幾何学的な形態はコントロールされたユートピアの印象を生む。モティーフの繰り返しは酩酊感を誘発し、結果として、ヒッピーのユートピアといった観がある。
《棘のドローイング(2)》(460mm×530mm)の画面は、中央に近い位置から放射状に伸びる直線によって分割された部分に、三角柱のテントや楕円の樹冠に加え、連続する肖像、柵、途中が括れた直方体(蝶ネクタイというより、中央に円部のない双方墳――仮にそのようなものが存在すれば――のような印象)のベッド、柊のような葉、そして、棘を表すものか無数の円錐の連なりが描かれている。髪の長い人物もいるが、(少なくとも過去の作品に描かれた人物に比べ)髪が短い人物の方が目立つ。巨大な柊のような棘のある葉を抱き締めている人物や、棘らしき円柱にしばれれた人物などの姿もある。途中が括れた不思議な形のベッドに横たわる人たちは葉蘭のような柵や円錐によって取り囲まれている。画面の中心から左右それぞれに向かって伸びる連続する画面に描かれた肖像も鋸の刃のように連続する三角形に上下が縁取られている。ユートピアは全てが管理された世界であり、それは島のような閉鎖的環境において構想されることが多い。もっとも、《Boundary line》などのより牧歌的で開放的な世界と対照するとき、棘と閉鎖的な世界はディストピアへの反転を示唆するようだ。
《Something holy》(910mm×727mm)の、三角柱のテントや円や木の葉状の樹冠といった作者におなじみのモティーフが配された画面には、左側に巨大な柊のような葉を表し、右側にはクリーム色と白とでベールを被った(あるいは長い髪の)聖母像のようなイメージを対置している。「柊」と「聖母像」の間には、粗朶が並べられ、その中で裸の人物が作業している。青い巨大な卸金や、青い円盤を縦横に繋ぎ合わせたパーテーションなど、用途不明の装置も見える。「柊」と「聖母像」の間に描かれる緑の楕円は、他の作品と異なり、1つ1つが確固たる形をとらず、重なり溶け合っている。いつの間にか酩酊状態に陥って識別が不能になってしまったかのようである。それは、鑑賞者が供犠に臨むために予め仕組まれたものではなかろうか。三角形のテントは、映画『ミッドサマー(Midsommar)』(2019)に登場する、三角形のファサードを持つ黄色い小屋を思わせる。青い円盤が打ち鳴らされ、巨大な卸金は人の生き血に染まり、粗朶には人がいるまま火が点けられるだろう。生贄が捧げられるのだ。そんな妄想を駆り立てる不思議な魅力を湛えている。