展覧会『髙木大地「Light, colour, outlines」』を鑑賞しての備忘録
2021年3月27日~4月25日。
髙木大地の絵画展。
森をモティーフとする《Moonlight》には、森の中を真っ直ぐに延びる道が自らの姿を夜空に表すかのように、両側を鬱蒼とした森に縁取られた青い帯が縦長の画面の中央に描かれている。高く昇った月に煌々と照らされて、深い森の中に立つ幹もはっきりと姿を見せている。一瞥すると、緑・青・白で塗り分けられたシンプルな月夜の森の景色に過ぎない。だが、下草の緑の繊細な直線、白い幹の凹凸を示す陰、繁る葉を表す密集する緑の短い描線、夜空を塗り込める青、輝きを放散する月の白い光と目で辿るうちに、森の奥へと分け入るように、画面の中に吸い込まれる。スタイルこそ異なるが、マックス・エルンストの世界に通じるものがある。葉の描き方によって樹種を描き分けた森の中に1羽の鳥を描いた《A Bird in the Forest》も、マックス・エルンストの絵画を髣髴とさせる。
椅子に座る人物をモティーフとする《Moonlight》には、明るい月の浮かぶ夜空を臨む窓辺の椅子に月明かりを背に座る人物を描く。腕を組み、脚を組む人物は、室内の闇に溶け込むように周囲と同じ青いシルエットで表され、月明かりの白い光が作る輪郭線によって姿が浮き出す。窓から見える夜空は、月が放つ光の充溢によって淡い群青として現れる。人物、椅子、室内(壁と床)、月の出る夜空が、青と白との明暗によって静寂を保っている。人物は、(画面には表されていないが手前にくっきりと姿を表しているだろう)自らの影を見つめ、深く内省している。「考える人」である。
椅子に座る人物を描く代わりに窓外に立つ樹木を1本描き込んだ《Moonlight》は、赤紫を基調とした作品。室内に射し込む月明かりが強められ、窓の枠となる壁や壁の周囲の明るさ(白さ)と窓外の闇の深さ(平滑に塗られた)との対比が際立っている。月は満月のような円に整えられ、葉が反射する月の光を白い線で描き込み、樹影を浮かび上がらせる。青い《Moonlight》との対比で、無常を描いた作品とも、人無き世界を描いた作品とも解される。
《leaves》は、暗いビリジアンの地に、様々な形に図案化した緑の葉を重ねたり並べたりした布のパターンを思わせる装飾的作品。《Blue Leaves》は淡い群青(実際には複数の色が塗り重ねられている)の地に図案化した紺の葉を並べた作品。葉のみを描いた《leaves》に対し、《Blue Leaves》では白い花瓶とそれを置く台(?)まで表すことで、工芸的な性格が薄められている。葉脈を表した葉や複数の色を重ねた地の複雑な表情に対し、花瓶の白さが強い。
《Rain》には、浜口陽三が描くスイカのような姿を表す、草叢に覆われた水辺が描かれている。斜めの白い直線が雨の表現になっている。のみならず、水面を覆う闇の中には、雨を表す黒い線も描き込まれている。
《Wanderer》は、海岸(湖岸?)に立ち、雲間から姿を覗かせる月が水面に伸ばす光を眺める人物のシルエットを描く。水面に月明かりが棒状に伸びるモティーフはエドヴァルド・ムンクの絵画を想起させずにはいない。水色と灰色とを中心にまとめられた画面は、決して明るい画面ではないが、清澄さとともにどこか明朗さを帯びているように感じられる。