可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 戸谷森個展

展覧会『curator's vol.1 戸谷森展』を鑑賞しての備忘録
GALLERY TAGA 2にて、2021年5月6日~31日。

絵画6点で構成される戸谷森の個展(企画:野田尚稔)。

《sunken》は、灰白、灰青、灰色、黒などグレー系統の色で統一された横長の画面(P4号:220mm×333mm)。上部3分の1くらいに、水面から姿を覗かせる板(?)の一部が正面向きにやや傾いて描かれている。「板」に不規則に打たれた11個の点が目を引く。板の浮かぶ水面は楕円形に表されており、水が円柱形の容器に湛えられているようだ。水はわずかに青みを帯びた灰色に濁っていて、板の残りの姿は明らかでないが、「板」の右側の端が水中に沈んでいることが、名残のような線で示されている。画面の下端、左端・右端の下半分、そして「板」が水面と接する部分には白い線が入れられている。同タイトルの別作品では、水の青さが強められるとともに、「板」のサイズが小さくなり、そこにカシオペヤ座を表すような5つの点が並んでいる。
《scape》では、横長の画面(F3号:220mm×273mm)の灰色を背景に、画面左上の角の近くから右端の中央下部に向かって、アオミドロのような緑の線がカーヴし、一旦途切れた後、真っ直ぐに延びている。画面左下附近から、「アオミドロ」が一番曲がっている部分に向かって、焦げ茶の線が延び、「アオミドロ」を挟んで横方向にわずかに反りながら画面右上に流れている。赤い線が、画面上端の右側から画面下端の中央左に向かって、緑と焦げ茶の線の上を湾曲しながら縦断している。画面全体を十字の線で4分割した、左下の中央附近に青い点が打たれている。
《triangle》は、横長の画面(F3号:220mm×273mm)の地が紺色で塗り籠められている。左下角に、画面下端を底辺とする三角形を白で描き、その頂点で、ほぼ相似をなすより大きな三角形の頂点と接している。2つの三角形は、俗に言う「砂時計型」をしているのですぐに(ほぼ)相似であると分かるが、三角形を塗りつぶすよりも明るい白の線がそれぞれ2本ずつ描き入れられていることで、相似であることが強調されている。上側に位置する大きい方の三角形の右端からは水が溢れ出し、下に向かって垂れている。また、二つの三角形の交点には、小さな円が描かれ、そこから画面下端に沿って右下の角まで線が延ばされている。
《Drive》は、森を抜ける車の窓からの眺めを表す作品であろうか。濃淡の緑で塗られた画面(F3号:273mm×220mm)全体に、右上から左下に向かう短い線が十数本、白で描かれている。移動や速度を表す効果線として機能している。画面右上には黒い(濃緑の)丸、画面中央左手には白い丸が添えられているのが目を引く。これもまたある点から別の点への移動をイメージさせる。
《Sway》では、縦長の画面(F4号:333mm×242mm)の中央やや上を、水平線が緩やかにカーヴして描かれる。水平線の下は海を表すためか紺色で、上は空を表すためか灰青で塗り込められている。中央縦に白い線が延び、「空」の中で旗のような形が白の絵具でかすれがちに表されている。「旗」の上部と「海」の中に表されている線には、ピンクが差されている。画面下部の「海面」には、旗を映すようなイメージが微かに残されている。
《Waver》も縦長の画面(F4号:333mm×242mm)。水平線を表すのか、画面左端の中央やや下から右下がりの線が右端に向かって延び、紺色に塗られている。「水平線」よりも上側には、太陽の光を表すのか、「水平線」と平行になるように黄色い帯が4本入っている。その「光線」の上には、ウィンドチャイムか竹製の風鈴のようなものと支柱らしきものが描かれている。とりわけ「ウィンドチャイム」(?)は、線と松葉のような形が組み合わされ、マルセル・デュシャンの《帽子掛け》のように、網膜に焼き付くような強い印象を作る。

《sunken》2点は、重力と浮力との釣り合いをテーマにしていると考えられる。「沈んだ(sunken)」と題しながら、ドットを描き込むことによって水面から覗いている部分に注目を促すのは、重力と浮力との対比を強調するためであろう。のみならず、「喫水」が移動する(=揺れ動く)ことをも含意しているかもしれない。両作品に挟まれる形で展示されている《scape》も、例えばアレクサンダー・カルダーのモビールのようにモティーフが空間で「揺れる」とするなら、青い点を中心にバランスをとっている情景と解することも不可能とは言えまい。《triangle》においても、2つの三角形(水を含んでいるから円錐であろうか)が1つの円(球)において接合される点、また水が溢れ出ている点から、円と水とで均衡を保つイメージとなっている。「揺れること(sway)」を冠した作品と、「揺らめく(waver)」と題された作品は、海辺(水辺)と思しき場所で、それぞれ旗(《Sway》)、あるいはウィンドチャイムのようなもの(《Waver》)が吹きさらされている。"drive"にも「吹き動かす」や「(風などが)叩きつける」という意味があることから、《Drive》を木々を渡る風の表現として、《Sway》や《Waver》と同じグループに含めることはできそうだ。