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芸術鑑賞の備忘録

映画『SNS 少女たちの10日間』

映画『SNS 少女たちの10日間』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のチェコ映画。104分。
監督は、ヴィート・クルサーク(Vít Klusák)とバルボラ・ハルポヴァー(Barbora Chalupová)。
原案は、ヴィート・クルサーク(Vít Klusák)。
撮影は、アダム・クルリシュ(Adam Kruliš)。
編集は、ヴィート・クルサーク(Vít Klusák)。
原題は、"V síti"。

 

2人の少女が隣同士に座り、それぞれ自分のスマートフォンを眺めている。スマートフォンに没頭する母親と、その隣でやはりスマートフォンの画面に釘付けになっている幼い子供。スマートフォンに夢中になっている子供たちとらえた映像に、チェコの子供たちのネット利用についての情報が重ねられる。
監督のVít KlusákとBarbora Chalupováが、インターネット上の児童虐待をテーマにしたドキュメンタリーを撮るため、12歳の少女を演じる成人女性を募集した。少女らしい衣装を身につけてオーディションに臨むよう求められた女性たち。監督は作品の趣旨について一人一人説明し、自分たちが女優を選ぶ権利があるように、参加者にも選択権があると告げる。中には、ネットでやり取りした画像について脅迫され、今も恐怖を感じていると語る女性もいる。
オーティションで選出されたNikola Komárková、Týna Junová、Michaela Soukupováには、それぞれ「サビナ・ドゥルハ」、「アネシュカ・ピタールトヴァ」、「テレザ・テスカー」という名前が与えられ、スタジオには奥に窓がある白い壁のサビナの部屋、天窓があるラベンダー色の壁のアネシュカの部屋、右手に窓がある水色の壁のテレザの部屋のセットが組まれた。女優たちが本物かと見間違う窓などを備えている上、室内には、家族写真、大切にしていたぬいぐるみ、ジュヴナイル向けの本、描いた絵、獲得したメダル、父親からプレゼントされた家の形のケースなど、女優たちが少女時代に使用していた私物を飾ることでリアリティが高められている。3人は、10日間、昼から夜にかけて「部屋」で「12歳の少女」として過ごし、SNSにメッセージを送ってきた男たちとヴィデオ通話することが求められている。スタジオには、監督の二人を始め、心理学者、性科学者、弁護士、犯罪学者らが「少女」たちと男たちとのやり取りをチェックする。
プロフィールをSNSにアップロードするとわずか5分で16件ものアクセスがあった。40、50代の男たちが「12歳の少女」にメッセージを送ってきた。

 

SNSで「12歳の少女」を性的搾取する男たちの姿を捉えたドキュメンタリー映画
PCのディスプレイに表示される男たちの顔は、プライヴァシー保護のため、フェイスマスクのように、目と口とだけが見えるようモザイク処理をされている。それ自体の気持ち悪さが、彼らの言動によって高められていく。
「少女」たちは、メッセージのやり取りの冒頭で「12歳」であることを強調するように求められている。男たちは年齢は関係がないと応答する。
編集のためでもあるだろうが、男たちはすぐさま露骨に性的な話題を始める。そして、手淫を始め、あるいは自らの性器(の画像)を見せる。自分の性的欲求を満たすことしか考えずに相手を道具として用いている。十分な判断力の無い「少女」であれば容易に目的が達成できると考えているのだろう。
男が勝手に服を脱ぎ、「少女」に対しても脱ぐよう要求する。求められていない行動を進んで行い、相手に対して借りがあるような状況をでっち上げ、その見返りを要求しようとする策を弄しているようだ。
服を脱いだり、胸を露出させたりといった要求は、性的興奮を得たいという意図もあるだろうが、それ以上に、画像を脅迫の材料に利用しようという意図が窺える。
「少女」たちの前に現れたある男は、たまたまスタッフが見知っている、子供たちのキャンプなどを手配している人物であった。監督やスタッフ、出演陣らが実際に彼のもとを訪れて問い詰められてもしらを切っていたが、「証拠」を突き付けられると、性的搾取されるような状況に陥るのは親の教育が悪く、また近所では少女が売春していると自らの責任を転嫁し始めた。
映画のクロージング・クレジットでは、インターネットを通じて子供(少女だけでなく少年も)が性的搾取を受けないよう、保護者に対して子供たちとの対話の必要性を訴える。
インターネットにおける児童の性的搾取に関する「啓発」を目的とした作品である。「啓発」の必要性については肯うが、作品自体が、性的な意味ではなく「感動ポルノ」という言葉における「ポルノ」となっている嫌いがないかという懸念を感じさせるほど、ストレートに嫌悪感を催させる構成が気になった。正しさの奔流に流されて、何かを見逃すことになってはいないかというような、一抹の懸念を感じさせるのだ。
「12歳の少女」を演じる出演者とヌードモデルとを「部屋」で撮影してコラージュし「児童ポルノ」画像を制作しアップロードしているが、その手法を用いずに済ませることはできなかったのだろうか。