可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『外方(そっぽう) 多摩美術大学日本画専攻卒業生選抜展』

展覧会『春立つ―大学日本画展@UNPEL Ⅰ「外方(そっぽう) 多摩美術大学日本画専攻卒業生選抜展」』を鑑賞しての備忘録
UNPEL GALLERYにて、2021年2月7日~23日。

多摩美術大学日本画専攻を卒業した4人の作家(小瀬真由子・小林明日香・判治郁奈・古木園子)を紹介する企画。

林明日香《Shelter》について
壁面の硝子ケースに展示された13点から構成されるインスタレーション。ガラスケース内の右の壁面には窓辺の籐椅子を描いた2点が掛けられている。硝子ケース内の正面の壁には、向かって右側に縦長の画面に松を描いたものと、同じく障子を描いたもの、その下にはカーテンを描いた紙が敷くように置かれ、その脇には2面の写真立てが置かれている。中央の壁面の左側には、横長の画面に風景(?)を描いたものが掛けられ、そのすぐ下に4点、左上に2点、カーヴミラーをモティーフとした作品が並べられている。
画面右手には、窓辺の籐椅子、障子、床と住居(shelter)を連想させる絵が並ぶ。硝子ケース内右手の壁に設置された籐椅子の作品では左手に窓があるため、ガラスケース内正面の壁が窓外を表すことになる。その窓外を表す壁に、左側に平行する障子の絵よりも高い位置に松の絵が掲げられることで、恰も松樹の先端が天に向かうような伸びやかなイメージが生まれている。それに対して、障子の絵では、下端に畳が描かれるとともに、その部分がガラスケース内の床に垂らされているために、住居(shelter)内との接続が強調されている。ガラスケース内の床に置かれた画面には、カーテンの裾がつくる波が表され、床(通路)が流れへと変じる。右手にはカーテンの波よりも濃い墨色で激しく筆を塗り重ねた部分があり、画面外、右方向に置かれた写真立てへと視線が誘導される。松は依代であり、障子、カーテン(=流れ=川)が境界を表す。そして、時計回りに、屋内=地(椅子)から窓外=天(松)へ、再び室内=地(障子・畳・カーテン・廊下)から室外=天(航空写真?)へという視線の循環により、境界を往き来する運動が生じてくる。
画面左手には、カーヴミラーをモティーフとした作品が並んでいる。鏡もまた依代である。そして、ガラスケースに向かって左奥には、カーヴミラーを髣髴とさせるべく、高い位置に、左側壁面と正面壁面という2つの面を架け渡す橋のように作品が設置されている。運転手から目視では見づらい場所、すなわち「死」角を映す鏡は、柳橋水車図における宇治川(「憂し側」=此岸)の彼岸のような「見えない世界(=パラレル・ワールド)」を示すのだ。新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のために住居(shelter)に避難する(shelter)必要から、モティーフを屋内に/屋内から求めざるをえなくなったことが本作《shelter》制作の動機の1つにあるだろう。同時に、新型コロナウィルスが(少なくとも肉眼では)「見えないもの」であることから、コロナ禍に、視覚偏重の社会において「見えないもの」に対する感覚を研ぎ澄ませとのメッセージを読み取ることは不可能ではあるまい。此岸(=見えない世界)から彼岸を見る、すなわち「外方(そっぽう)」からの視線の導入(境界を往き来する運動)こそ、本作のテーマではなかろうか。