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芸術鑑賞の備忘録

映画『5月の花嫁学校』

映画『5月の花嫁学校』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のフランス映画。109分。
監督は、マルタン・プロボ(Martin Provost)。
脚本は、マルタン・プロボ(Martin Provost)とセブリーヌ・ヴェルバ(Séverine Werba)。
撮影は、ギョーム・シフマン(Guillaume Schiffman)。
編集は、アルベルティーヌ・ラステラ(Albertine Lastera)。
原題は、"La Bonne Épouse"。

 

ポレット(Juliette Binoche)が降ろしてあったブラインドを上げる。ピンクのスーツを見に纏った彼女は、鏡に向かって身だしなみを念入りに整える。アルザス地方にあるヴァン・デル・ベック家政学院。1967年度の新入生を迎える日。理事である夫ロベール(François Berléand)の部屋へ。今年の入学者は18人だという。胃の調子が悪いと訴える夫を働き過ぎよと慰めると、ロベールの妹ジルベルト(Yolande Moreau)を呼ぶ。自室でレコードを聞いていたジルベルトはロベールの世話に向かう。校内を巡検し終えた尼僧のマリー=テレーズ(Noémie Lvovsky)に、ポレットが話しかける。新入生が昨年よりさらに減ったわ。それより赤毛の生徒がいるのをどうにかしないと禍が。今まで居たことがなかったの? 一度たりともありませんよ。ポレット、マリー・テレーズ、ジルベルトは揃って新入生の前に姿を現す。マリー=テレーズが生徒たちを一旦起立させて、座らせる。ポレットは入学者たちにマナーと礼節を身につけさせ、「良妻賢母」になるよう指導すると挨拶する。そして、早速、良き妻の心得7箇条を説明していく。生徒たちは寝室に案内される。各自ベッドに荷物を置くと、制服を身につける。授業は清掃から始まった。夜8時。イヴェット(Lily Taieb)はぬいぐるみを手に泣いている。マリー=テレーズが消灯しようとして、1人ベッドから離れて立っているアルバーヌ(Anamaria Vartolomei)を見咎め、なぜ自分のベッドにいないのか訊ねる。アルバーヌはコリンヌ(Pauline Briand)に話しかけようとしていたのだが、歯を磨くためだと答える。歯を磨くのは朝だけ、用を足すなら備えてある器にするようにと告げると、アニー(Marie Zabukovec)が不平を訴え、他の生徒たちも同調した。やむを得ずマリー=テレーズは1人ずつを条件に、トイレの使用を許可した。ポレットは夫に不穏な社会情勢について尋ねる。先にベッドに入り、トップレスで日光浴する女性の記事を読んでいたロベールは、政治に関心なんかあるのかとそっけない返答。ロベールは妻を求めようとするが、応じたくないポレット本を手に取っていたが、上の階のジルベルトが音楽を響かせたので、それを止めさせるよう夫に頼む。ロベールがジルベルトを説得して戻ってくると、ポレットは夫の要求を拒みきれず、受け容れる。

 

ヴァン・デル・ベック家政学院において良妻賢母を育成しているポレット(Juliette Binoche)が、ある出来事をきっかけに、自らの生き方と教育方針について再考を迫られることになる。

以下、冒頭以外の内容についても触れる。

ポレットは、良妻賢母になることが女性の幸福であると少女たちに熱心に説いてきた。そして、自らの授ける教育が間違っていないことを証明するためにも、良き妻であろうと努めてきた。かつて将来を誓い合った人とは戦争により引き裂かれ、生活のために、ロベールの秘書の職を何とか手に入れたポレットにとっては、「良妻」を肯定することは自らの人生を肯定することでもあった。ところが、夫の死をきっかけに、それまで耐えてきたことの意味を考え直さざるを得なくなる。学院の取引金融機関の担当者が偶然かつての恋人アンドレ(Édouard Baer)で、彼からのアプローチによって、ポレットは自らの命運に反逆(révolté)を試みることになる。
兄ロベールから部屋や食事を提供されることで、無給で学院の教員を務めてきた妹ジルベルト(Yolande Moreau)は、アンドレがポレットに深い思いを抱いている旧知の仲であることを知らず、恋い焦がれるが、その恋が破れてからの変わり身の早さは、失恋の痛手を隠すためのものであったのだろうか。アルバーヌ(Anamaria Vartolomei)がコリンヌ(Pauline Briand)を見初め、いつしかコリンヌがその愛情に応えるようになった経緯や、アニー(Marie Zabukovec)が学院を抜け出して逢い引きする相手との関係も、詳らかではない。とりわけイヴェット(Lily Taieb)の「事件」後の展開は粗雑と評さざるを得ない。そのような展開の瑕疵を強引にまとめ上げるために結末のミュージカル・シーンが置かれたようにも思われる。
ミュージカル・シーンを挿入すること自体に異論は無い。「反逆」を表すミュージカルにおいて、自らの命運を変えようとしているポレットはともかく、生徒たちはその意味を理解して歌い踊っていたのだろうか(かといって「反逆」のムードに流されて加わっているのだという諷刺のようにも見えない)。ヴァン・デル・ベック家政学院の初日の夜の少女たちの小さな「反逆」を描き、また、学生たちの社会変革を求める動き(「5月革命(Mai 68)」)を臭わせ続けていただけに、陋習打破の熱気を伝えるもの(例えば、レジスタンスに加わっていた尼僧マリー=テレーズ(Noémie Lvovsky)の銃をぶっ放すシーンに匹敵するくらい)にして欲しかった。