可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『オーライ展』

展覧会『オーライ展』を鑑賞しての備忘録
ミヅマアートギャラリーにて、2021年5月26日~6月26日。

境界をテーマに掲げた、ミヅマアートギャラリー所属作家5人によるグループ展。会田誠の《疫病退散アマビヱ之図》(ポスターの原画)と「パビリオン・トウキョウ2021」出品予定の立体作品《東京城》の一部(上部)、赤松音呂の立体作品「チョウズマキ」シリーズ2点、O JUNの絵画7点と「海とベトン」シリーズの組み写真、棚田康司の彫刻《微かに青年の頭部》と《つづら折りの少女 その3》、山口晃の絵画《入水清経》と《当世壁の落書き 五輪パラ輪》で構成される。

O JUNの作品について
トーゴ》、《母島》、《Hawaii Islands》は、いずれも黒い鉄製の額縁に収められた白い画面に、それぞれトーゴの国境線、母島の海岸線、ハワイ諸島の海岸線を、鉛筆で塗りつぶした黒い円の連なりで表し、それによって囲まれる部分をオレンジ色のクレヨンで塗りつぶしたものと考えられる。断定できないのは、例えば《トーゴ》において、右下は、一般的に地図では南東に当たる地域であるが、それならばギニア湾に沿ってベナン領が細長く伸びているはずであり、トーゴはやや内陸側に引っ込んでいなくてはならない。ところが「右下」には黒い円がベナン側に飛び出している。そこで《トーゴ》は南北が逆であると解すれば、飛び出した黒い円がトーゴ北西のブルキナファソとガーナとに挟まれた地域となる。その場合、今度はトーゴベナンとの間の人為的国境(直線)が左右反転してしまうなど矛盾が生じる。《トーゴ》だけでなく《母島》や《Hawaii Islands》においても、タイトルと、グリッドをなす鉄製の黒い額縁によって強調される領域の平板なイメージから、黒い円の連なりを海岸線と捉えてしまうが、正確性に欠けている。否、作家は、黒い円の連続の粗雑さをもって国境線や海岸線の曖昧さをこそ表現しようとしているのかもしれない。
《道路と女とパーキング(切通之冩生)》は、岸田劉生が描いた《道路と土手と塀(切通之写生)》を下敷きにした作品。劉生の作品がほぼ正方形の画面に凸凹した舗装されず土の露出している地面、石積みの壁、草木の生える土手などのモティーフを緻密に描き込んでいるのに対し、作家は、縦長の画面に、構造物などのモティーフを抽象化して限られた線を用いて表現している。劉生の画面の左側にあった白い壁が、作家の作品では白線へと収斂してしまったかのようである。また、画面下部の、劉生が電信柱の影を描いていたあたりには、女性の頭部が浮いたように描かれ、その下には草が表されている。頭部の像というと、世界地図に表される風の神々「アネモイ」を思わずにいられない。電信柱が依代となってエウロスを召喚し、もたらされた雨が草を芽吹かせたのかもしれない。近くに描き込まれた、駐車場を表す"P"の看板がpneuma(風)に見えてくる。