映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のフランスのドキュメンタリー映画。100分。
監督は、アントワーヌ・ビトキーヌ(Antoine Vitkine)。
撮影は、グザビエ・リバーマン(Xavier Liverberman)、ポリーヌ・ルヴェ(Pauline Louvet)、マイク・パターソン(Mike Paterson)、エドワード・バリー(Edward Bally)。
編集は、イバン・ドゥムランドル(Yvan Demeulandre)とタニア・ゴールデンバーグ(Tania Goldenberg)。
原題は、"Salvator Mundi: la stupéfiante affaire du dernier Vinci"。英題は、"The Savior for Sale"。
2017年11月15日、「レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)の」《救世主(Salvator Mundi)》はクリスティーズ・ニューヨークで競売にかけられ、史上最高値の4億5030万ドルが付いた。
ロバート・サイモン(Robert Simon)は、滞欧時に美術に目覚め、絵画を商うようになった。2005年、ニューオーリンズで行なわれた遺品の売り立てカタログに、ウェンセスラウス・ハラー(Wenceslaus Hollar)がダ・ヴィンチの《救世主》を模刻したとされる版画に似た構図の絵画を発見する。相続人がクリスティーズに競売を持ちかけたものの断られたため、遺品整理に回したものだった。購入価格は1175ドル。ダイアン・ドワイヤー・モデスティーニ(Dianne Dwyer Modestini)による「修復」の結果、右手の親指が角度の異なる2本あることが判明し、模写ではなくダ・ヴィンチの原画であると考えられた。ダ・ヴィンチの展覧会を企画していたナショナル・ギャラリー(ロンドン)の「野心的な」キュレーターであるルーク・サイソン(Luke Syson)は、イギリス、アメリカ、イタリアの専門家5人にダ・ヴィンチ作品であるか評価を仰ぐ。イギリスの美術史家マーティン・ケンプ(Martin Kemp)だけが真筆であると判断を下したが、サイソンは「レオナルド・ダ・ヴィンチ ミラノの宮廷画家」展(2011-2012)に《救世主》を新発見のダ・ヴィンチ作品として展示した。
2017年にオークションで史上最高値を付けた絵画《救世主(Salvator Mundi)》をめぐるドキュメンタリー。2005年に、ニューオーリンズのエステート・セールで売りに出されていた《救世主》は、ある美術史家のお墨付きを得て、ロンドンのナショナル・ギャラリーで開催された「レオナルド・ダ・ヴィンチ ミラノの宮廷画家」展(2011-2012)に目玉作品の1つとして展示された。
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)のキュレーターであるルーク・サイソン(Luke Syson)が、「レオナルド・ダ・ヴィンチ ミラノの宮廷画家」展(2011-2012)に展示した《救世主(Salvator Mundi)》について、ダ・ヴィンチの真作かどうか鑑賞者の判断を仰ぎたいとコメントしている(彼のインタヴューでは、言い直す前の部分が敢て一部残されている)。それに対し、ジャーナリストのスコット・レイバーン(Scott Reyburn)が、真贋の判定は専門家の仕事であって、国民投票じゃないと一刀両断に切り捨てる。返す刀で、イギリス国民に委ねたらEUを離脱したと。
クリスティーズ・ニューヨークで行なわれたオークションでは、「ダ・ヴィンチの作品」であるにも拘わらず現代美術部門で扱われた。鑑識眼を持たず作家名で判断する買い手を惹き付ける狙いがあったと考えられるという。売り立てカタログでは習作の参考図版の作者を「ダ・ヴィンチの工房」から「ダ・ヴィンチ」へと変更。さらに外部のマーケティング会社に依頼して「最後のダ・ヴィンチ(The Last Da Vinci)」と銘打って多様な観衆をオークション会場に招き、人々が絵を見る姿を宣伝に利用した。
2005年に姿を現した絵画について、その時点からの来歴については詳しく説明されるのに対し、作品自体についてはさほど丁寧な解説はないし、画面に映し出されもしない。スフマートによって《モナ・リザ(La Gioconda)》の顔の表現に似せられているらしい。ヨーロッパでは行なわれない「修復」が行なわれているとの指摘もあった。少なくとも画面からは、作品が魅力的に映らない(色眼鏡で見ているせいか?)。
話している最中や話し終えた直後の表情に、インタヴュイーの性格が透けている。見ていて気分が悪くなる人物が多い。
英題の「売り出し中の救世主(The Savior for Sale)」に比して、邦題はあまりに的外れだ。